研究課題/領域番号 |
23780277
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
下鶴 倫人 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 助教 (50507168)
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キーワード | 冬眠 / クマ / 代謝 |
研究概要 |
クマ類は冬眠期間中、一切の摂食・摂水を行わず、体脂肪を唯一のエネルギー源として長期にわたる絶食期間を乗り切る。本研究では、ツキノワグマにおける冬眠期間中のエネルギー産生・消費メカニズムに焦点を当て、冬眠期に生じる代謝機構の変化を明らかにすることを目的し、平成24年度は肝臓・骨格筋・脂肪におけるエネルギー代謝関連遺伝子の発現量の解析を行った。 クマを麻酔により不動化し、バイオプシー法により肝臓、骨格筋、脂肪を採取した。各組織の採材は活動期である6月、過食期である11月、冬眠期である3月に実施した。各組織よりmRNAを抽出し、各月におけるエネルギー代謝関連遺伝子の発現量をリアルタイムRT-PCR法を用いて比較した。この結果、肝臓においては脂肪合成酵素の遺伝子発現が11月に上昇すること、また冬眠期においては糖新生に関与する酵素の遺伝子発現量が増加し、解糖および脂肪合成に関与する遺伝子発現量が減少することを明らかにした。また、本成果を国際学会(International Hibernation Symposium)および海外学術誌(2編)において発表した。脂肪や骨格筋においても同様に、過食期における脂肪合成酵素群の増加、冬眠期における糖代謝・脂肪合成酵素群の減少が認められた(現在解析中)。このようにクマは各臓器における代謝様式を季節的に調節することにより、秋に効率良く脂肪を蓄積し、冬眠中においては体脂肪を用いて効率良くエネルギーを産生することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初から予定していた肝臓・骨格筋の採取に加え、脂肪の採材を追加したことにより、エネルギーの産生器官である肝臓、貯蔵器官である脂肪、消費器官である骨格筋について、エネルギー代謝の季節変化を総合的に考察することが可能となった。一部の成果はすでに海外学術誌において発表済みであり、平成25年度は2報を報告する予定である。このように、研究は順調に進展しているものと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪および骨格筋におけるサンプリングと遺伝子発現量の解析を継続して行い、成果を取りまとめて海外学術誌に投稿する予定である。また、これまでの成果から冬眠中のエネルギー代謝様式は個体の繁殖状態(妊娠や授乳など)によって影響を受けることが明らかとなりつつある。平成25年度はこの点についても研究を発展させ、繁殖活動が個体の体温や血中のエネルギー関連物質濃度に如何に影響を与えるのかを明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
阿仁クマ牧場における試料の採材に際し、他大学の研究者および現地関係者の協力が得られたため、実験に同行する人員を一部削減できた。このため、約13万円を節約することが可能となった。 次年度は脂肪および骨格筋における遺伝子発現量の解析を完了させるため、試料採材のための旅費・消耗品費(阿仁クマ牧場への往復、および現地宿泊費、計6回を予定)として約40万円を、遺伝子解析の消耗品として約35万円、血中成分の生化学分析のための消耗品費として20万円を使用予定である。また成果を国内学会および国際学術誌において発表予定であり、そのための費用(旅費および英文校閲、投稿料)として約25万円を使用する予定である。
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