クマ類は冬眠期間中、一切の摂食・摂水を行わず、秋に蓄えた体脂肪を唯一のエネルギー源として長期にわたる絶食期間を乗り切る。本研究ではツキノワグマにおける冬眠期間中のエネルギー産生・消費メカニズムに焦点を当て、冬眠期に生じる代謝機構の変化を明らかにすることを目的し、冬眠中の血液生化学値ならびに肝臓・骨格筋・脂肪におけるエネルギー代謝関連遺伝子の発現量の解析を行った。飼育下のクマに麻酔処置を施し採血を行った後、バイオプシー法により肝臓・骨格筋・脂肪を採取した。各組織の採材は活動期である6月、過食期である11月、冬眠期である1・3月に実施し、各月におけるエネルギー代謝関連遺伝子の発現量をリアルタイムRT-PCR法を用いて比較した。この結果、過食期では肝臓および脂肪において脂肪合成に関わる酵素遺伝子の発現量が増加することが明らかとなった。一方冬眠期においては、糖新生に関与する酵素の遺伝子発現量が肝臓で増加し、解糖および脂肪合成に関わる遺伝子発現量が減少した。また平成25年度に骨格筋および脂肪についてサンプル数の拡充を行った結果、両組織共に冬眠中に解糖や脂肪合成に関わる酵素の発現量が低下することを明らかにした。冬眠中の血糖値は活動期と同程度に維持されており、脂質代謝関連成分の軽度な増加は生じるものの、ケトーシスなど脂質代謝の亢進に伴う代謝障害は生じていなかった。このようにクマは各臓器における代謝様式を季節的に調節することにより、秋に効率良く脂肪を蓄積し、冬眠中においては体脂肪を用いて効率良くエネルギーを産生する仕組みを有していることが明らかとなった。
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