研究課題/領域番号 |
23780279
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
櫻井 敏博 東京大学, 農学生命科学研究科, 特任助教 (70568253)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 妊娠認識 / 受胎率向上 / PBMCs / インターフェロンタウ / 共培養 |
研究概要 |
本研究課題の目的は、人工授精(AI)施行後10日以内の妊娠初期に起こる母体の変化(血液中と生殖器中)を明らかにし、胚移植(ET)時の妊娠認識を補助することで受胎率の向上を試みることである。平成23年度は研究実施計画通り、AIを施行した妊娠7日目および10日目の子宮内膜組織および同日のPBMCsを回収し、妊娠認識によって起こる遺伝子発現変化をcDNAマイクロアレイ法を用いて網羅的に解析した。PBMCsの解析結果からは、いくつかのケモカインやサイトカイン、MHCなどの遺伝子発現の変化が確認できた。しかし、子宮内膜組織を用いたcDNAマイクロアレイ解析では、遺伝子の発現に変化は認められなかった。このデータは奇しくも先に投稿されたFordeらの報告(2011年)と一致した。このことは、これまで知られている妊娠認識物質のインターフェロン・タウ(IFNT)が分泌され始める前には子宮の遺伝子発現に影響を与えないことを意味し、IFNTの子宮の胚受容能獲得に向けた変化への重要性を再認識させる。しかしながら、ET施行3日前にPBMCsの子宮内投与によって受胎率向上が認められたという共同研究での成果から、免疫細胞の妊娠初期における重要性も否定出来ず、受胎率向上に向けたPBMCsの作用を検討して行くことにした。そこで先ず、着床過程を再現するin vitro系を確立しようと試みた。また、同時にウシ子宮内膜上皮細胞および間質細胞の不死化を試みた。ウシ子宮内膜上皮細胞を播種した培養皿にウシ栄養膜細胞株CT-1細胞と着床周辺期の子宮灌流液を添加することによって、着床過程を再現するin vitro共培養系を確立することができた。このin vitro共培養系を用いることにより、着床過程へのPBMCsの関与を検討することができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では妊娠初期のウシ子宮内膜細胞において遺伝子の発現に変化があると予想していたが、予想に反して実際は胚が発育し、インターフェロンタウが発現する時期まで遺伝子の変化は認められなかった。しかし、妊娠初期の免疫細胞(PBMCs)からは、数遺伝子の発現に変化が見られた。そこで、先の研究で得られた知見と併せて、免疫細胞(PBMCs)の妊娠への関与に焦点をあて研究を進めて行くことにした。当初の計画を変更したことにより、着床過程を再現できるin vitro共培養系の確立を進めていったが、この系の確立に予想以上に時間がかかってしまった。しかしながら、研究成果として平成23年度に投稿できた論文は、revise中を含めると6本(revise中は内1本)であり、研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の当初の研究計画では、妊娠初期(受精後約1週間)に発現する新規の妊娠認識物質を探索とそれに伴う母体の変化を解明することであったが、上記に書いたようにインターフェロンタウの分泌前には、子宮内膜細胞において遺伝子発現に変化は認められなかった。しかしながら、本研究課題の目的である『受胎率向上』を目指し、先の研究で得られたPBMCs子宮内投与による受胎率向上と本研究課題で得られた妊娠初期のPBMCsでの遺伝子変化を併せて、免疫細胞による妊娠認識機構の解明と受胎率向上の機序の解明を今後進めていく予定である。そこで、平成23年度に確立したin vitro共培養系を用い、PBMCsが分泌するサイトカインやケモカインの着床への関与を確かめ、それら因子の発現制御機構を解明していく。また、胚がいかに子宮内に分泌された栄養素を捕捉し、発育や遊走に利用しているかも同時に検討していく。これらの検討は、妊娠認識機構を再考する上で重要な検討であり、本研究課題の目標である受胎率向上に向けた意義のある検討であると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究計画は上記にあるように、in vitro共培養系を用いて検討していく予定である。そのために必要な培養ディッシュやメディウムなど培養関係に費用がかかる。また、妊娠認識機構の解明にあたり、着床周辺期における子宮内分泌物のプロテオミクス解析を行う予定であり、得られた知見からリコンビナントタンパク質の合成または購入に使用する。併せて、プロテオミクス解析に必要なスペックを持つコンピューターを購入する予定である。設備備品に関しては、本大学獣医学および応用動物科学専攻の共通機器、当研究室の現有機器で対応できるので購入予定はない。
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