研究概要 |
時計遺伝子(Clock, Bmal1, Cry, Per)は転写制御因子であり、環境の明暗に同調した約24時間周期の転写フィードバックループを形成し、生理現象のリズム性を制御する。本研究では卵巣で起きる周期的現象(排卵や卵胞発育)を制御する未知の分子機構を明らかにするため、マウス卵巣にて時計遺伝子に転写制御される遺伝子(Clock controlled genes: CCGs)の同定を目指した。CCGsには24時間のうち、転写が促進される時間帯と抑制される時間帯がある。そのためそれぞれの時間帯に採取した卵巣または卵巣由来細胞に発現する遺伝種を網羅的に解析・比較すれば、卵巣におけるCCGsの同定が可能である。当初この検討を予定していたが、時計遺伝子転写フィードバックループを失い、CCGsの転写が常に抑制されるClock変異マウス(Cl-)と、CCGsの転写が常に促進されるPer1/Per2ダブルノックアウトマウス:(P1P2-))の卵巣サンプルが入手できたため計画を変更し、Cl-の卵巣にはCCGsの転写が促進されている時間帯の野生型マウスの卵巣、P1P2-の卵巣には CCGsの転写が抑制されている時間帯の野生型マウス卵巣を組み合わせ、それぞれ発現遺伝子の網羅的な解析・比較を行なった。本検討の結果、Cl-卵巣にて転写量が有意に減少した373遺伝子、P1P2-卵巣にて転写量が有意に上昇した252遺伝子を得た(P<0.05)。これらの遺伝子のうち野生型マウス卵巣との転写量の違いが顕著であった数十の遺伝子は卵胞にて機能するものであり、時計遺伝子タンパク質と共に卵胞に局在したため、卵巣でのCCGsであると考えられた。またこれら候補遺伝子はStARやAmhといった性ホルモンの合成や卵形成を規定するものであり、プロモーター領域に時計遺伝子タンパク質の標的となるE-box等のサイトも認めた。
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