研究概要 |
完全に分化した体細胞に転写因子Oct4,Sox2,Klf4,c-Mycを導入することにより多分化能を有するiPS細胞へとリプログラミングできるが、未だその効率は低率であるためその分子機構を解析するためには効率的な方法を開発する必要がある。これまで申請者は、iPS細胞へのリプログラミングのマスター因子であるOct4遺伝子を遺伝子工学的に改変することによりその効果を増大させる転写活性化法の開発を行なってきた。すなわち他の転写因子から転写活性化領域をOCT4に融合することで、因子導入後のリプログラミング過程においてOct4の転写活性が増大し、iPS細胞への効率が向上する。昨年度、骨格筋マスター転写因子MyoDの転写活性化領域及びヘルペスウイルス由来VP16の転写活性化領域をOct4に付加するとiPS細胞への効率が50倍以上になること、樹立の際フィーダー細胞を必要としないことを明らかにした。今年度は、この転写活性化領域付与した転写活性化型Oct4の卵細胞への導入により本来未受精卵子が持つ卵子型リプログラミング活性化を増強させることができるか検討した。体細胞核移植前のブタ除核未受精卵に予め活性化型Oct4のmRNAを注入し、核移植を行いクローン胚の体外発生能及び核リモデリングの影響を調べた。予想に反して、活性化型Oct4を注入することによりその濃度依存的に核移植卵の体外発生能は著しく損なわれた。また核移植後の体細胞核のクロマチンリモデリングを免疫染色法により確認したが、リプログラミングに重要な脱メチル化及びアセチル化の促進は観察されなかった。以上の結果から、iPS細胞へのリプログラミングを強力に促進する転写活性化法は、体細胞核移植によるリプログラミングを促進することはできず、転写因子型リプログラミングと卵子型リプログラミングの機構の違いがあることが明らかとなった。
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