研究課題/領域番号 |
23780285
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
若林 嘉浩 独立行政法人農業生物資源研究所, 動物生産生理機能研究ユニット, 任期付研究員 (00510695)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | キスペプチン / neurokinin B (NKB) / Dynorphin / パルス状分泌 |
研究概要 |
弓状核キスペプチンニューロン神経系は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)/黄体形成ホルモン(LH)のパルス状分泌を制御すると考えられており、このニューロン群の周期的な同期発火が、パルス状GnRH/LH分泌を引き起こす根源であることが示唆されているが、その制御機構は不明である。本年度は、1)多数の弓状核キスペプチンニューロン間に、同期発火を可能とする神経回路が存在し、2)弓状核キスペプチンニューロンに共発現しているNeurokinin B (NKB)およびDynorphin (Dyn)によってこの同期発火活動が制御されている、という仮説を検証するための研究を行った。 弓状核における神経回路の形態学的解析を行った。弓状核キスペプチンニューロンは密集して存在しており、各細胞間に多数のキスペプチン陽性線維が存在することが明らかとなっている。そこで、ヤギ弓状核組織切片を用いて、キスペプチンニューロン細胞体をin situ hybridization(ISH)で検出し、NKBおよびDynを、免疫組織化学染法で同時に検出した。その結果、NKBあるいはDyn陽性線維がキスペプチンニューロン細胞体周囲を密に取り囲む像が観察された。従って、NKBおよびDynは、キスペプチンニューロン間の相互連絡に重要な役割を持つと考えられる。更に、NKBの受容体であるNK3Rとキスペプチンの二重ISH法を確立し、その発現パターンを解析した結果、大多数の弓状核キスペプチンニューロンがNK3Rを共発現することが明らかとなった(90.4%)。これまでのシバヤギ弓状核神経活動記録手法を用いた解析結果と考え合わせると、NKBは、キスペプチンニューロン間の神経ネットワーク内でシグナル伝達因子として作用し、互いの弓状核キスペプチンニューロンを同期発火させると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度の研究計画では、弓状核のスライスを用いて単一のニューロン細胞体にトレーサーを注入し、その樹状突起及び軸索走行パターン等の形態を解析する予定であったが、単一のニューロンへのトレーサー注入法の確立が遅れたため、当初の研究計画通りの成果が得られていない。同様に、スライスを用いたカルシウムイメージング法の確立については、カルシウムインジケーターのスライス切片への効果的な充填法に問題が生じており、カルシウム濃度を指標とした神経活動の解析法の確立が困難な状況となっている。一方、弓状核キスペプチンニューロン同期発火機構の形態学的解析については、当初の計画以上の成果が得られた。特に、次年度に実施を計画していたNK3Rの弓状核内における発現パターンの解析や、これまで手技的に困難であったキスペプチンとNK3Rの共染色法の確立が既に完了している。これらの点を踏まえて、研究計画全体としての達成度はやや遅れていると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
弓状核スライスを用いたカルシウムイメージング法の確立および、単一キスペプチンニューロンへのトレーサー注入法の確立を引き続き行う。また、トレーサー注入法による単一ニューロンの可視化と平行して、共焦点レーザー顕微鏡を用いた弓状核キスペプチンニューンの線維の走行パターンの解析を行うことで、キスペプチンニューロン間の神経回路の形態学的特徴を明らかにする計画である。また、弓状核キスペプチンニューロンにおけるNK3RおよびKappa opioid receptorの発現解析を行うことで、NKBおよびDynの弓状核キスペプチンニューロン内の役割を形態学的に解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、カルシウムイメージングおよび単一細胞へのトレーサー注入実験が、計画通りに遂行できなかったため、計画していたこれらの実験に必要となる消耗品購入費を使用しなかった。 今年度は、弓状核スライスを用いたカルシウムイメージング法の確立のために、カルシウムインジケーター等の試薬、また単一ニューロン可視化のためのトレーサー等の試薬を購入する。また、神経回路の形態学的解析を行うために、ISHプローブ作製用試薬、ISH法に用いる試薬類、抗体、およびシグナル可視化の為のチラミドシグナル増感キット等を主に購入する予定である。
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