近年、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の損傷と修復が、がん病態に影響を与える可能性が示唆されているものの、その関連は明らかではない。mtDNA修復に不可欠な酵素であるミトコンドリア型のAPエンドヌクレアーゼ(mtAPE)は現時点で同定されておらず、本分野の研究を妨げる一因となっていることから、mtAPEの実体と機能を明らかにすることを目的に研究を行った。 本研究においてミトコンドリア単離法について、従来一般的に用いられてきた方法を改良し、より純度の高いミトコンドリアを得ることに成功した。この方法を用いてAP endonuclease 1(APE1)の局在を再検討したところ、ミトコンドリア分画におけるAPE1の局在は観察されず、これまでの報告にはない新規の知見となった。単離ミトコンドリア分画を用いて、ミトコンドリア分画に存在する酵素の活性試験を行った結果、粗ミトコンドリア分画ならびに純ミトコンドリア分画において、わずかなAPエンドヌクレアーゼ活性と明瞭なAPリアーゼ活性を検出することに成功した。この未知のミトコンドリアAPリアーゼの実体を明らかにするため、NaBH4トラッピング法を用いて本APリアーゼを基質DNAに共有結合させ、このタンパク質-DNA複合体について検討を行った。その結果、本APリアーゼは分子量30-40kD程度のタンパク質であることが見出された。現在、質量分析法を用いて本酵素の同定を進めている。 今後の研究の展開として、本酵素のミトコンドリアDNA損傷修復における役割についての細胞レベルでの検討ならびにがん病態における役割についての移植腫瘍モデルを用いた検討を行う必要がある。 本研究ならびにその関連研究の成果の一部については、国際フリーラジカル学会や日本ミトコンドリア学会などで発表を行った。
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