研究課題/領域番号 |
23780292
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井上 直子 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90377789)
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キーワード | スンクス / 交尾排卵 / 交尾刺激 / 嗅覚刺激 / キスペプチン / GnRH |
研究概要 |
本研究は、排卵を人為的にコントロールできる交尾排卵動物のスンクスを用い、1.キスペプチンニューロンへ入力する上位神経機構と2.キスペプチンニューロンを介したGnRH分泌機構を明らかにすることにより排卵制御の神経メカニズムを明らかにすることを目的としている。 1. キスペプチンニューロンへ入力する上位神経機構 膣頸管に逆行性神経標識トレーサーを注入し脊髄や延髄での標識細胞を調査したが、標識された神経終末は確認できなかったため、キスペプチンニューロンが局在する中枢からの神経経路の探索を行った。固定したスンクス脳の視索前野部位に逆行性の神経トレーサーであるカルボシアニン蛍光色素DiIの結晶を埋め込み、脳組織切片を作製し観察したところ、中隔核、分界条床核、手綱核、菱形核、薄束核などで蛍光標識が認められ、これらの領域から視索前野に神経が投射していることが明らかとなった。現在、標識が確認された神経核と交尾刺激や排卵制御の関連性を解析中である。 2. キスペプチンニューロンを介したGnRH分泌機構 本年度は、雌スンクス脳におけるKiss1発現ならびにキスペプチンニューロンの活性化について検討した。未交尾雌に雄の床敷の臭いをかがせた群は交尾群と同様に、視索前野のKiss1発現細胞数が増加することが明らかとなった。しかしながら、未交尾雌に雄の床敷の臭いをかがせた群のKiss1発現細胞は、神経細胞活性化の指標とされる最初期遺伝子c-Fosを共発現しておらず、交尾群の視索前野のKiss1発現細胞にのみc-Fosの共発現が認められた。これらのことより、雌スンクスでは雄由来の嗅覚刺激により視索前野のKiss1発現細胞数が増加し、交尾による物理的刺激により視索前野のキスペプチンニューロンが活性化されGnRH分泌を誘起していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、研究代表者が産休ならびに育児休業を7ヶ月間取得し研究を中断したため、研究の遅れが生じた。 キスペプチンニューロンへ入力する上位神経機構の解析は、末梢からの探索において、神経トレーサーを用いた解析を行っている。トレーサーの種類、注入方法の検討を重ねているが、脊髄や延髄において標識された神経終末は確認できず難航している。中枢からの探索に切り替え、蛍光トレーサーのDiIを用いた解析を行っているが、トレーサーを埋め込む量、位置などの検討がさらに必要である。 キスペプチンニューロンを介したGnRH分泌機構の解析においては、スンクスでは雄由来の嗅覚刺激により雌の視索前野でKiss1発現細胞数が増加し、交尾の物理的刺激により視索前野のキスペプチンニューロンが活性化されGnRH分泌を誘起していることが明らかとなり、おおむね順調に研究が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、キスペプチンニューロンへ入力する上位神経機構の解析について、神経トレーサーのDiIを用いた解析を引き続き継続する。 キスペプチンニューロンを介した性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)分泌機構の解析においては、今年度着手できなかったキスペプチン受容体であるGPR54遺伝子のスンクス脳内における発現解析を行い、キスペプチンの作用部位の推定を行う。また、GnRHによって誘起される、性腺刺激ホルモン(LH, FSH)分泌動態について、DELFIA(時間分解蛍光法)を用いたアッセイ系またはバイオアッセイを利用した解析方法の確立を検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は研究代表者が産休ならびに育児休業により研究を中断したため、予定していた研究費の遂行ができず研究費の繰り越しならびに研究期間の延長申請を行った。 来年度は、研究計画や研究費の執行に大きな変更はないが、今年度購入できなかった実験試薬類(麻酔薬、神経トレーサー、PCR用試薬、プライマー合成、チューブ・シャーレ類、培養試薬)、器具類の購入を行い、研究の推進を行う予定である。また、使用する動物を自家繁殖しているため、動物のエサ、床敷き、飼育ケージ、給水瓶の購入を行い、実験に使用する動物の増産を行う。
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