本研究は、排卵を人為的にコントロールできる交尾排卵動物のスンクスを用い、1.キスペプチンニューロンへ入力する上位神経機構と2.キスペプチンニューロンを介したGnRH分泌機構を明らかにすることにより排卵制御の神経メカニズムを明らかにすることを目的としている。 1. キスペプチンニューロンへ入力する上位神経機構 本年度は、キスペプチンニューロンの細胞体が局在する中枢側の視索前野から交尾刺激を伝達する神経経路の推定を試みた。固定したスンクス脳の視索前野にカルボシアニン蛍光色素DiIの結晶を1-2ヶ月間埋め込み、脳組織切片を作製し観察したところ、外側中隔核や三角中隔核、扁桃体、オリーブ核、傍小脳脚核および延髄の孤束核、薄束核などで標識細胞体が認められた。また、分界条において、DiIによって標識された神経線維の束を観察することができた。これらの結果より、スンクスの膣で受け取られた交尾刺激(触覚や圧覚)を視索前野へ伝える神経経路の候補として、1)一般に知覚性の脊髄神経が終末する延髄の薄束核を介する経路、2)一般臓性感覚を伝達する迷走神経が終末する延髄の孤束核を介する経路が考えられた。 2. キスペプチンニューロンを介したGnRH分泌機構 GnRHによって誘起される、黄体形成ホルモン(LH)の分泌動態について、DELFIA(時間分解蛍光法)を用いたアッセイ系の検討を行ったところ、スンクスのLHが測定できることが確かめられた。 キスペプチン受容体であるGpr54遺伝子のスンクス脳内における局在をin situ hybridizationによって検討したが、Gpr54 mRNA発現細胞を検出することができず、キスペプチン作用部位の推定には至らなかった。
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