研究課題
日本脳炎ウイルスは人や馬に感染し脳炎を、妊娠した豚に感染し流死産を引き起こす。世界での日本脳炎の患者数の増加を考えると、感染メカニズムや発症機構などが解決すべき課題であろう。本研究では日本脳炎ウイルスの感染メカニズムを包括的に調べ、感染から発症までのウイルス動態を臓器・細胞・分子レベルで具体化することを目的とする。最終年度では、まず日本脳炎ウイルスの感染を高める機能があることが判明した3つのC型レクチンDC-SIGN, DC-SIGNR, LSECtinの作用比較を行った。DC-SIGNRおよびLSECtinの場合、日本脳炎ウイルスを調製した細胞種に関係なく感染を高めることが判明した(ただし高める程度は前者が著しく大きい)。DC-SIGNの場合は、感染を高めるか否かはウイルスの調製細胞種に依存していた。DC-SIGN/DC-SIGNRについて、キメラ分子を作製し、結合効果および感染増強効果との関連性を調べたところ、いずれの効果も各分子の細胞外領域に依存していることが判明した。また、日本脳炎ウイルスと結合する新規の分子を同定するため脳および脾臓のcDNA libraryの探索を行ったが結合する新規分子は得られなかった。これら研究全体から次のことが考えられる。日本脳炎ウイルスは蚊の吸血により人や馬の皮内に侵入した後、樹状細胞などにDC-SIGN分子を介して感染する。樹状細胞で増殖したウイルスは今度は血流に乗るなどして樹状細胞以外の細胞に感染していく。DC-SIGNRやLSECtinを発現している肝類洞や胎盤の内皮細胞に感染していき、良く増殖する。胎盤内皮細胞への感染は妊娠豚の流死産と関係するかも知れない。中枢神経系に良く感染する傾向を持つ日本脳炎ウイルスを産生する細胞種が体内にあり得て、それを同定することが脳炎を発症するメカニズムの解明や阻止に役立つはずである。
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