研究課題
申請者は、高脂肪食を持続摂取しても体重増加を認めず、腸間膜脂肪蓄積のきわめて少ない高脂肪食耐性(diet-resistant ; DR)ラットを用いて、代謝特性と分子基盤に関する研究を進めている。DRラットの摂食行動、エネルギー代謝関連遺伝子の発現パターンやシグナル伝達を高脂肪食肥満(DIO)ラットや普通食(コントロール)ラットと比較し、DRの代謝特性を検討した。DRラットでは、脂肪酸合成関連酵素が低下し、脂肪酸β酸化関連酵素の発現が有意に増加していることが明らかになった。また、DR、DIO、コントロールラットの腸間膜脂肪組織を脂肪細胞分画と血管内皮、マクロファージ、白血球からなる細胞分画;stromal-vascular cell fraction(SVF)とに分け、DR特異的変動遺伝子の発現分画を調べた結果、DRラットで特異的に発現増加している遺伝子が、マクロファージ由来であることを明らかにした。さらに、DR特異的遺伝子を発現しているマクロファージと初代脂肪細胞を共培養することで、脂肪細胞の大きさや分化・増殖への影響を検討した。共培養した脂肪細胞は脂肪滴の蓄積が少なく、脂肪酸合成や脂肪滴形成に関わる遺伝子の発現が減少していた。また、DR特異的発現変動遺伝子をsiRNAによりノックダウンしたマクロファージと脂肪細胞との共培養を行うと、脂肪細胞の脂肪滴蓄積抑制効果や、脂肪酸合成および脂肪滴形成に関わる遺伝子の発現低下作用は認められなくなったことから、マクロファージのDR特異的発現変動遺伝子は、脂肪滴蓄積を制御していることが示唆された。現在、マクロファージにDR特異的遺伝子を導入した遺伝子改変動物(Tgラット)を用いて詳細な機能解析を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
DR特異的発現遺伝子を挿入した遺伝子改変動物(Tgラット)の作製は、平成24年度に作製予定であったが、すでにTgラットの作出および維持が出来ている。
Tgラットの全身臓器の形態的観察、エネルギー代謝機構を解析し、同定したDR特異的発現物質のin vivoでの機能および新たな生理機能を解析する予定である。また、Tgラットから採取した細胞とDIOラットの脂肪細胞を共培養し、脂肪滴蓄積改善効果を検討する。あるいは、Tgラットから採取した細胞をDIOラットに移植し、肥満改善効果を検討する。肥満改善効果が認められた場合は、さらに耐糖能やインスリン感受性など内分泌学的な評価を行う予定である。
1) 動物の維持費や特殊飼料の購入に用いる。2) レプチン、アディポネクチン、インスリンなどのホルモン動態を測定するためELISA関連の試薬を購入する。また、血清脂質を測定するための試薬および器具を購入する。3) 脂質代謝・糖代謝関連物質の発現を遺伝子発現レベルで検討するため、定量PCRやウエスタンブロッティングなどを行うために必要な抗体・試薬・チップなどの消耗品を購入する。4) 研究打ち合わせのためと研究成果発表のための旅費と学術誌に投稿する費用に用いる。
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