研究課題
昨年度からの検討課題を継続して実施し、メチル水銀(MeHg)がMARCKS発現量とリン酸化への影響を明らかにすることができた。このMARCKSの役割は毒性学的にも重要であり、学会にて発表を行った他、論文を準備中である。一方、そのメカニズムと一つとして、メチル水銀による細胞内Ca動態への影響が考えらたことから、メチル水銀、水銀(HgCl2)、カドミウム(CdCl2) 処置による細胞内Ca濃度への影響をヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞を用いて検討した。MeHg, HgCl2およびCdCl2 (0-30 μM)刺激により明らかなfura-2蛍光比の上昇が認められた。膜透過性の重金属キレート剤であるTPENを刺激3時間後に処置したところ、MeHgおよびHgCl2により上昇した蛍光比は約15%および30%減少した一方、CdCl2刺激により上昇した蛍光比はほぼbasal levelまで減少した。細胞外Caのキレート剤であるEGAT、Caチャネル阻害薬であるニフェジピンおよびLaCl3前処置の影響をarea under the curve (AUC)を用いて解析したところ、MeHg刺激による蛍光比の上昇はEGTA存在下では非存在下に比べ約60%抑制された一方、HgCl2での抑制は約40%であった。またMeHg刺激に対するCaチャネル阻害薬の影響はわずかであったが、HgCl2による蛍光比の上昇はLaCl3前処置によって約30%抑制された。以上の結果から、重金属によって刺激された細胞内ではCa以外の二価陽イオン濃度が変化している可能性が示唆され、また、MeHgおよびHgCl2はSH-SY5Y細胞においてCa流入とCa遊離により細胞内カルシウム濃度の上昇を引き起こすことが明らかとなり、メチル水銀を含む重金属による細胞内二価陽イオン動態の一端を明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度と平成24年度の実験計画については、その大部分は計画通りに実施されており、概ね順調に進展していると思われる。一部の実験項目については、都合上平成25年度に実施を延期したものもあるが、メチル水銀以外の重金属による影響など、当初計画以上の成果も得られている。
おおむね順調に進展しているものの、重要な課題の一つである脳の免疫組織学的検討については結果が得られておらず、今後は新規手法の適応も含め検討を進めていく。また、これまでの研究結果について、例数の追加など必要な実験を行い、学会・論文発表に向けた準備を進めていく。さらに、MARCKSのバイオマーカーとしての可能性を検討するため、血小板における解析を進める。
今年度は、これまでの実験手法に対する消耗品の購入に加え、論文発表に必要な英文校正経費、学会発表の参加費や旅費に使用する予定である。特に成果を広く公表するために、海外学会への参加を予定している。また、一部実験項目の延期により生じた未使用金額については、今年度実施する際に消耗品の購入に用いる予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件)
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