研究課題
社会的動物が繁殖能力や環境への適応能力を最大限発揮するためには、他個体に興味を示して適切に認知し、行動や生理反応を引き起こす“社会性”が必要である。本研究はそのような社会性が、良好な母仔関係により発達するメカニズムを解明するため、幼少期オキシトシン(OT)神経系の解剖学的特定、母性因子によるその活性化、幼少期のOTシグナルが社会性発達に及ぼす影響を明らかすることを目的に実施された。本研究では幼少期OT神経系の解剖学的特定のために、OT受容体プロモーターに蛍光タンパク質であるVenusを組み込んだ遺伝子改変マウスを用いた。生後14日齢と成熟後のマウスを比較した結果、成熟後と比べて生後14日齢の帯状回皮質にVenus発現細胞がより多く分布していた。幼少期特異的なOT神経系の存在が初めて直接的に示されたといえる。また、この幼少期のOT神経系の神経内分泌動態を調査した結果、生後14日齢の仔マウスを母マウスから隔離すると、帯状回皮質におけるOT含量が減少することや、その後母マウスとの接触時間に相関してOT含量が増加することが明らかとなった。母性因子の特定まではいたらなかったが、幼少期のOT分泌は母の存在によって促進されることが考えられた。さらに、OT阻害薬を徐放させるシートを生後4日齢のマウスの大脳裂孔に留置し、帯状回皮質へのOTシグナルを抑制した結果、この処置をうけたマウスは成熟後の社会的親和性や母性行動が減少し、社会記憶能力も阻害された。今後、幼少期特異的なオキシトシン神経系をさらに詳細に解析し、この神経系の活性化が帯状回皮質や他の脳部位の発達にどのような影響をもたらすかなどをさらに明らかにする必要がある。
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