牛白血病ウイルス(BLV)感染は近年拡大の一途を辿っており、それに伴いBLVが生乳や生肉などの畜産物やウシ由来の生物製剤、ワクチンなどへ迷入するリスクは非常に高くなっている。感染細胞や感染性ウイルス粒子が、このような環境中へ拡散した場合は、大きな社会問題となることは疑いないが、現時点で高感度に環境中の感染性BLVを検出する方法は存在しない。そこで本研究では、申請者らが発見したBLV転写活性化遺伝子taxの高活性型および開発したリアルタイムPCR法による高感度BLV検出法を駆使して、環境中に迷入した微量な感染性BLVを検出・定量可能な方法を新しく確立する事を目的とした。 はじめに高活性型BLV転写活性化遺伝子tax(TAX D247G)をHeLa細胞に導入し、その発現を確認をFlag-tagを用いて確認し、続いてLuc assayにより、Wild typeよりTax D247Gが高い転写活性化能を有する事を確認した。しかしながら、Tax蛋白は高いアポトーシス活性を有することが知られており、安定発現株の調整は非常に困難であった。そこで、Taxの発現による細胞への効果を調べるために、Tax導入細胞のmRNAをもちいて、マイクロアレイによる網羅的発現解析を行い、Tax D247Gの発現により、計139遺伝子の発現に変化が起こることを明らかにした。これら遺伝子は転写/翻訳、シグナル伝達、細胞増殖、アポトーシス、ストレス応答および免疫応答に関与するものであった。特に高活性化型Taxは多種類の遺伝子を幅広く制御していた。また新たに、Tax遺伝子が自然免疫系の抑制を行ったり細胞のストレス応答を誘導していることが明らかとなった。これらの結果を利用して今後Tax安定発現株の作成に取り組む予定である。
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