研究課題
本研究では、インフルエンザウイルスの主要抗原であるヘマグルチニン(HA)とそのモノクローナル抗体(mAb)に焦点をあて、ウイルスがmAbからエスケープする際に起こるHA上のアミノ酸置換の特徴を明らかにすることを目的とし、アミノ酸置換に伴うHA-mAb複合体の相互作用変化を計算科学的手法により解析した。まず、結晶構造がすでに解かれているHA-mAb複合体構造を初期構造として、30ナノ秒の分子動力学計算を行い、MM/PBSA法およびMM/GBSA法により、HAと抗体との結合自由エネルギーを計算した。また、ウイルス学的実験で観測されたエスケープ変異を、HA-mAb複合体構造にコンピュータ上で導入し、これを初期構造として、30ナノ秒の分子動力学計算を行い、同様に結合自由エネルギーを計算した。その結果、エスケープ変異体では野生型と比較して、結合自由エネルギーが不安定化することが分かった。また、MM/GBSA法で求めた結合自由エネルギーは、MM/PBSA法で求めたエネルギーよりも、定性的によく合うことが示された。さらに、上記それぞれの初期構造に対して、フラグメント分子軌道計算を行い、HAと抗体との相互作用エネルギーおよび相互作用残基を比較した。その結果、本研究で対象とした複合体モデルにおいては、変異した残基自体が直接、相互作用の低下に影響していることが分かった。これらの結果から、抗原抗体反応の結果生じるエスケープ変異株のアミノ酸置換を予測できる可能性が示唆された。現在、より多くのHA-mAb複合体構造について計算を進めているのと同時に、その他の結合自由エネルギー計算の方法についても検討を行っている。
3: やや遅れている
分子動力学計算およびフラグメント分子軌道計算の計算時間およびその結果の解析時間が想定していたよりかかっており、達成度はやや遅れている。
本年度は、より多くのHA-mAb複合体構造について計算を行い、結果を蓄積することを第一の目標とする。また、糖鎖レセプターとの結合能の評価に関しても、同時に計算を行う予定である。
本年度は、計算機使用料および研究成果の報告に研究費を使用する予定である。
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