研究概要 |
本研究は、豚と鳥の宿主体温が異なることに着目し、野鳥由来A型インフルエンザウイルスの豚細胞における低温での増殖性獲得に関与するウイルス側及び宿主側の要因を明らかにすることを目的としている。平成24年度までに哺乳類(人、豚)から分離されたA型インフルエンザウイルスは、低温条件(33℃)での増殖能が高く、野鳥由来ウイルスは、高温条件(41℃)での増殖能が高いことを確認した。低温での増殖能が高温よりも約400倍低い野鳥由来ウイルスA/teal/Tottori/150/2002(H5N3)(Tottori株)とA/whistling swan/Shimane/580/2002(H5N3)(Shimane株)を豚肺胞上皮細胞で33℃で14代継代した結果、両ウイルスとも高い低温増殖能を得ていた。低温馴化した両ウイルスのPB2、PB1及びHA遺伝子及び、Tottori株においては、NP遺伝子の翻訳領域にも非同義置換が認められた。 平成25年度には、低温馴化したTottori株とShimane株の非翻訳領域を含めた全ゲノム解析により、Tottori株のPB2とPA遺伝子、Shimane株のNA遺伝子の非翻訳領域の塩基置換を明らかにした。本成果により、鳥ウイルスの豚での増殖能獲得にポリメラーゼ活性やHAタンパクの膜融合活性や非翻訳領域が関与している可能性が示唆された。さらに、PB2,PB1,PA及びNP遺伝子に認められた塩基置換がウイルスポリメラーゼ活性に及ぼす影響を調べるため、疑似的インフルエンザウイルスRNAを作るプラスミドをMDCK細胞にエレクトロポレーション法により導入し、異なる温度でのウイルスポリメラーゼ活性測定を行う系を確立した。今後、本研究により確立したポリメラーゼ活性測定系を用いて、それぞれの塩基置換が低温増殖能と豚細胞での増殖能の獲得にどのように関与するかを解析する計画である。
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