研究概要 |
本研究では、犬の炎症性腸疾患(IBD)の発症における腸粘膜バリア機能とサイトカインの役割に着目し解析を行った。まず、腸粘膜のバリア機能については、細胞接着因子であるタイトジャンクション(TJ)とアドヘレンスジャンクション(AJ)の腸粘膜病変局所での発現パターンを評価した。TJタンパクとしては、クローディン-1~5, -7, -8のタンパク質発現を、AJタンパクとしては、Eーカドヘリン、βーカテニンのタンパク質発現を評価した。その結果、EーカドヘリンのみがIBDの症例犬の十二指腸粘膜で発現低下していることが明らかとなった。一方、少数個体を用いて行った予備実験で、発現の低下傾向が認められていたクローディン-7については、健常犬とIBD症例犬の間で優位な発現量の差は認められなかった。腸粘膜バリア機能低下の背景として、ヒトのIBD患者の腸粘膜で高発現しているサイトカインであるインターロイキン(IL)-17に着目し発現解析を行った。その結果、犬のIBD症例の十二指腸粘膜では、IL-17をはじめとするヘルパーT細胞サイトカイン(IL-17, IL-4, IFN-γ、IL-10)の遺伝子発現量は、健常犬での発現量と有意な差が認められなかった。同様に、炎症性サイトカイン(IL-1β, IL-6, TNF-α, IL-8)の遺伝子発現についても両群間で差は認められなかった。これらのことから、IBD症例犬の十二指腸粘膜におけるEーカドヘリンのタンパク質の発現低下の背景には、ヘルパーT細胞サイトカインや炎症性サイトカイン以外の因子が関与していることが疑われた。これまでの犬のIBDの病態解析では、腸粘膜のバリア機能に着目した研究は数少なく、本研究の重要な成果は、IBD症例犬の十二指腸粘膜での細胞接着因子の発現パターンを初めて明らかにしたことである。
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