研究概要 |
犬の悪性黒色腫は、高い転移率と従来の治療法への低い反応性から、罹患動物の予後が悪いことが多い。このため、本腫瘍に対する新たな治療法として数多くの免疫療法の開発が試みられてきたが、それらの奏効率は決して高くない。この原因として、本腫瘍細胞のもつ免疫寛容誘導能が関与していると考えられている。そこで本研究では、より奏効率の高い免疫療法を確立するため、本腫瘍細胞において免疫寛容を誘導するGpnmb (Glycoprotein nmb)蛋白質に注目し、これによる免疫寛容誘導経路の阻害と、ペプチドワクチン療法とを組み合わせた新規免疫療法について検討を行ってきた。 まず、wst-8を用いた生細胞染色法を用い、in vitroにおけるイヌの細胞障害活性の評価系を確立した。続いて、4種の腫瘍関連抗原(gp100, Tyrosinase, MART-1, MAGE1)に対してそれぞれペプチドを作製し、これによる刺激を組み合わせた改良型のリンパ球活性化を試みた。この結果、従来法に比較して有意な細胞障害活性の上昇を認めた。しかしながら、免疫寛容誘導阻害を目的としたGpnmb抗体を用いたさらなる改良法では、従来法と同等程度の細胞障害活性を示すにとどまった。一方で、臨床例から得た悪性黒色腫細胞における腫瘍関連抗原の発現パターンや免疫動態に関するデータを蓄積、解析した結果、症例ごとに対応させた抗原刺激の必要性が示唆された。 腫瘍関連抗原ペプチドを用いた活性上昇の報告はこれまでも多く認められているが、本研究の結果により、イヌ抗原ペプチドを従来の活性化リンパ球療法に組み合わせることで、症例のニーズに対応した実効性の高い治療法となることが示された。今後は、Gpnmb抗体を用いた改良法に関してもさらなる改良を加えつつ、実際の獣医診療に応用可能な新規免疫療法の開発を試みていくものである。
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