イヌ乳腺腫瘍原因遺伝子である癌抑制遺伝子Breast Cancer early onset 2 (BRCA2)の変異は乳腺腫瘍発症と関係すると考えられている。そこでBRCA2の変異を検出することにより乳腺腫瘍のリスク診断が出来るのではないかと考えた。このリスク診断法を確立するためには、腫瘍発症と関係する変異を見いだす必要があった。本研究では以下の手順を踏むことで、乳腺腫瘍発症リスク診断法の確立を目指した。 1)イヌBRCA2遺伝子の変異を同定するために必須なコンセンサス配列が未決定であった。そこで、腫瘍を発症していない25検体のイヌのBRCA2の塩基配列を調べることでコンセンサス配列を決定した。2)約50検体のイヌ乳腺腫瘍組織のBRCA2の一部分の塩基配列を調べ、1)で決定したコンセンサス配列と比較することでBRCA2の腫瘍発症と関わる変異の候補を検索した。その結果、13種類のミスセンス変異を発見した。3)13種類のミスセンス変異のうち、2種類の変異(T1425P、K1435R)はBRCA2の機能ドメインであるBRC repeat 3(BRC3)に存在した。これらの変異が及ぼすBRC3機能への影響を調べるためにin vitroおよびin vivoにおいて解析した。その結果、いずれの変異もBRC3の機能に影響を与えた。 以上の結果より、T1425P、K1435R変異はBRCA2の機能に影響を与えることで乳腺腫瘍発症に関わっている可能性が考えられた。これらの変異の検出法の一部はすでに確立済みであるので、今後これらの変異検出法を乳腺腫瘍発症リスク診断法に応用していきたい。
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