林業の衰退に伴う森林管理(間伐)の放棄が森林生態系の窒素浄化能を低下させ、それによる森林の窒素飽和と渓流水等への窒素流出が懸念されている。本研究は、窒素循環の律速であるアンモニア酸化を担うアンモニア酸化真性細菌(AOB)とアンモニア酸化古細菌(AOA)に注目し、森林管理である間伐がこの微生物生態系へ与える影響を解析した。異なる間伐強度(無間伐、弱度間伐、強度間伐)の地点をモニタリングポイントとし、各地点の土壌間隙水と、間隙水の採取点周辺の3カ所より深度5 cmの土壌試料を採取した。各試料の採取は5月から11月まで月1回の頻度にて行い、また6、8、11月では深度20 cmと50 cmの土壌試料、そして8月以降はリター層も採取した。土壌間隙水では、NH4-N、NO2-N、NO3-N濃度を測定した。微生物生態系は、各土壌試料とリター層より抽出したDNAを用い、amoA遺伝子を標的とした定量 PCRとDGGE法による分子生物学的手法によって解析した。調査した全土壌間隙水中のNO3-N濃度は、強度間伐で0.7 mg l-1以下、無間伐で1.7 mg l-1から26.8 mg l-1、弱度間伐で0.16 mg l-1から17.6 mg l-1であり、強度間伐で最も低かった。AOBの解析では、定量PCRにより6月の強度間伐における遺伝子コピー数が同月他区に比較して多かったが、他の月で差はなかった。また6月の弱度間伐と無間伐では土壌深度が深くなるにつれて遺伝子コピー数は減少したが、強度間伐では深度による差はなかった。AOAの解析では、5月と7月の強度間伐にて各月の他区より遺伝子コピー数が多くなることが観察された。AOA/AOBの比は強度間伐では5 ~ 7月で他区より小さかった。これより、強度間伐では他区とアンモニア酸化微生物の構成が異なり、窒素循環にも影響を与える可能性が示唆された。
|