本研究は山形県最上川支流河口域の極浅部水深領域の汽水堆積物に生息するメタン代謝古細菌の生理生態を明らかにすることを目的とした。半円推型試料採取器により垂直方向に取得した堆積物を10 cmごとに分画し、これをゲノムDNA抽出用試料とした。各々の試料をビーズ破砕に供し、試料に含まれるゲノムDNAの抽出・精製を行った。これを鋳型としてPCR法により古細菌16S rRNA遺伝子の増幅を行い、大腸菌を用いて増幅遺伝子産物のクローニングを行った。塩基配列決定後、相同性検索、分子系統解析を行う事により、各々の堆積物中の古細菌の菌叢解析を行った。解析の結果、堆積物深度40~50 cmおよび80~90 cm区画において、水素依存性メタン生成能を有するMethanomicrobiales目メタン生成古細菌および酢酸依存性メタン生成能を有するMethanosarcinales目メタン生成古細菌のクローンが検出された。堆積物深度0~10 cm区画においてはメタン生成古細菌のクローンは検出されなかった。これらから、当該堆積物は中深度から高深度において上記の古細菌グループが主要なメタン生成を担っている可能性が示唆された。また、40~50 cm において、嫌気的メタン酸化反応を担っていると推定されている古細菌(ANME古細菌)のクローンが多く検出された。当該深度域堆積物(深度44~54 cm)においては、13C標識メタンを用いた嫌気的メタン酸化活性が認められた。同活性は硫酸還元細菌阻害剤(Molybdate)存在下あるいはメタン代謝阻害剤(2-bromoethanesulfonate)存在下では活性が認められなかった。以上の結果から、当該深度領域においては、硫酸塩依存型嫌気的メタン酸化反応を起こし得るような絶対嫌気性共生微生物(硫酸還元細菌およびANME古細菌)が生息している可能性が示唆された。
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