霧が頻繁に発生することが確認されている新潟県大佐渡山地を対象として,当該地域に発生する雲霧帯の時空間的分布の変動,森林内の熱収支・水収支特性に着目して,雲霧常襲地に成立する森林群集の成立・維持機構を明らかにすることを目的とする研究を行った。 昨年度の観測より,大佐渡山地の稜線に位置する関越(標高700m)において,暖候期(6月~10月)の日中時間帯(4:00~19:00)に発生する霧の出現頻度をインターバルカメラを用いて長期撮影したところ,霧は観測期間の約60~70%に当たる日で出現することが明らかになった。今年度は霧の動態に着目し,同一流域内の標高の異なる3地点(170m,600m,700m)において霧の出現率を調べたところ,標高によって霧の出現率に明瞭な違いが認められ,標高が増すほど霧の出現率が高かった。 霧の成因を明らかにするため,現地集中観測,気象データから検討を行ったところ,当該流域に発生する多くの霧は,麓の湿った空気塊が山腹斜面に沿って上昇する際に凝結する上昇霧であることが判明した。また,霧発生時の気象状況について,大気の鉛直安定度,持ち上げ凝結高度(LCL)から検討したところ,関越での霧出現日の大気は,多くの場合,条件付き不安定状態にあり,この大気の強制上昇や不安的化には日中時間帯に卓越する海風が寄与していることが推察された。 稜線に成立するスギ林内の土壌環境に及ぼす霧の影響評価のため,昨年に引き続き,蒸発に伴う土壌表層の重量変化の測定及び熱収支観測を2012年8月14日~18日にかけて実施した。その結果,土壌表層では霧の有無に関わらず蒸発が起こり,霧発生時の蒸発量は非発生時に比べて減少する傾向が認められた。これは,霧がスギ林土壌の安定的な水分環境の維持に貢献していることを意味している。
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