研究概要 |
食材性昆虫シロアリは、摂食した枯死材の主要成分であるセルロースやヘミセルロースのほぼ100%を分解・利用することが知られている。本研究では、シロアリ共生原生生物が持つ木質分解酵素遺伝子群を対象として、各共生原生生物種がどのような基質に作用する木質分解酵素遺伝子のセットを有しているのか解析し、効率的な木質分解の機構を明らかにすること、並びにそれら木質分解酵素遺伝子の進化的起源に関する知見を得ることを目的とした。 鹿児島県に生息するオオシロアリの腸内に混在する原生生物群集から、顕微鏡下で形態を見分け細胞内に木片が取り込まれている大型のEucomonympha属、Trichonympha属原生生物を1細胞づつ分取した。この細胞を鋳型としてcDNAを合成し、RT-PCRによりGHF7,45のセルラーゼ、GHF10のキシラナーゼ遺伝子を増幅して解析した。その結果から、原生生物の各細胞内では複数の木質分解酵素が同時に発現機能していることが推定された。 ついで、保有する遺伝子から木質分解の効率性を考察するため、ゲノムにコードされる遺伝子の多型を解析した。原生生物の単一細胞からゲノムDNAを等温増幅法で調製し、各原生生物細胞が有するGHF7のセルラーゼ遺伝子をクローニングした。それぞれのサンプルからコロニーを釣菌して塩基配列を決定したところ、いずれの細胞からも複数の異なる配列が得られた。そこで、パイロシークエンス法で塩基配列を決定して網羅的に解析を行った。その結果、細胞間で共通の配列も検出されたが、多くは細胞ごとにユニークな配列で、多型が非常に多いことが明らかになった。これらのことから、原生生物はゲノム中に複数のセルラーゼ遺伝子を重複して保有していると考えられた。また、このような遺伝子多重化が高効率な木質分解に関連していることが推察された。
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