研究概要 |
作物が乾燥ストレスに対して最も感受的なのは出発芽期である.乾燥地ではこの時期の降雨が不安定であるため,出発芽や初期成長が抑制されることが多く,天水農地における減収の要因のひとつになっている.これに対し,播種前の種子に一度吸水させてから再乾燥する「種子ハードニング」とよばれる種子予措を行うと,乾燥土壌下における出発芽が向上することがコムギなどの作物種で明らかにされている.しかし,その向上程度の遺伝的差異やメカニズムは十分に解明されていない.本年度は,遺伝的背景がほぼ同じ合成コムギ系統を対象に,乾燥ストレス下での発芽に対するハードニング処理の効果とその系統間差異を明らかにすることを目的とした.また,同処理がジベレリン(GA)とα-アミラーゼ活性に与える影響や外生GAの投与効果についても検討した. ICARDAが開発したパンコムギの合成6倍体3系統(SYN8, SYN10, SYN15)とその戻し交配親であるシリア在来系統Cham6を供試材料とした.PEG溶液におけるCham6の発芽率は,永久萎凋点でハードニング処理種子のほうが無処理種子に比べて有意に高かった.同条件で供試4系統を調査したところ,ハードニング処理による発芽率の向上程度に顕著な系統間差異が認められ,その程度はSYN15が最大,SYN8が最小であった.SYN15では,無処理種子よりもハードニング処理種子およびGA3を吸収させた種子のほうが高い発芽率を示したのに対し,SYN8ではそのような差異はなかった.また,α-アミラーゼ活性は発芽率とほぼ同様の傾向を示した.これらの結果は,ハードニング処理による発芽率の向上に,GAとそれが誘導するα-アミラーゼが関与することを示唆している.また,ハードニング処理中に外生GA3を投与すると,その濃度の影響は明確ではないが,系統に関わらず発芽率が向上することが明らかとなった.
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