ヘテロクロマチンは発生や疾患におけるエピジェネティックな遺伝子発現抑制など、様々な生命現象に重要な役割を果たす最も代表的な高次クロマチン構造であるが、その形成の仕組みの詳細は未だに不明な点が多い。このヘテロクロマチン形成にユビキチン化が関与することを示唆する知見が2004年に発表されたが、ユビキチン化修飾をうけるヘテロクロマチン因子は現在に至るまで不明なままである。本研究では、ヘテロクロマチン形成におけるユビキチン化が果たす役割の解明を目的とした。まず、先行する研究より申請者が構築した迅速にユビキチン化タンパク質を同定するGST-Ub法から見出したタンパク質のユビキチン化の検証を行い、ユビキチン化タンパク質25種類を同定した。更に25種類の中からCul4ユビキチンリガーゼの構成因子をコードするrik1やclr4を破壊した約200株を作製し、Cul4ユビキチンリガーゼによってユビキチン化されるタンパク質の同定を行った結果、RNAポリメラーゼIIの構成因子を基質の候補として見出した。しかし、哺乳類ではヘテロクロマチン領域から転写されるRNAの存在は報告されているが、何によって転写されているかや、その機能も明らかになっていない。そこで、最終年度はCul4ユビキチンリガーゼおよびRNAポリメラーゼIIが哺乳類のヘテロクロマチン形成に関与しているか検証する過程で、Cul4ユビキチンリガーゼ構成因子のヒストンメチル化酵素Clr4のマウスホモログSuv39h1がRNA結合能を有することを見出した。今後、これにユビキチン化が関与しているかを明らかにしていく予定であるが、当該年度に実施した研究によって、哺乳類でもヘテロクロマチン形成にncRNAが関与していることを明らかにし、保存性の高い因子のユビキチン化修飾を見出したことは、ヘテロクロマチン形成機構の解明のブレークスルーになると予想される。
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