申請者はこれまで,遷移金属として特にパラジウムを用い,触媒的炭素-水素結合 (C-H) 官能基化を経由する炭素-ヘテロ原子(硫黄および窒素原子)結合形成プロセスを分子内反応へと適用 (C-H 閉環) した新規縮合複素環化合物構築法の開発を行い,成果を挙げてきた.その中のひとつに,チオベンズアニリド類の C-H 閉環反応を利用したベンゾチアゾール合成がある.本プロセスに関する引き続く検討により,本ベンゾチアゾール構築に水溶媒の適用が可能であることが判明した.特筆すべきは,この水溶媒を用いることで,それまで 100 度以上の高温条件が必要であった閉環反応が室温付近の温度で円滑に進行した点である.この水溶媒の反応促進効果の詳細については現在検討を行っているところであるが,上記の研究から,より環境調和型かつ実践的なベンゾチアゾール合成法を確立した. 一方,一酸化炭素 (CO) は C1 ユニットとして有機合成化学上有用であり,種々のカルボニル化合物誘導体の合成に広く利用されてきた.申請者は,C-H 閉環プロセスと併せて CO 挿入が効率的に行える反応系を見出した.触媒としてはルテニウムが有効であり,様々な置換基を有する 2-ヒドロキシビフェニル化合物から対応するジベンゾピラノン化合物が収率よく得られた.この際,所望の C-H カルボニル化を伴う閉環プロセスは,CO の加圧条件を用いることなく速やかに進行した.得られた最適条件を用いることで,様々な置換パターンを有するジベンゾピラノン化合物が,高い官能基共存性を伴って収率良く得られた.現在,本手法の詳細な反応機構解析とともに,他の基質への CO 挿入を検討している.
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