本研究の目的は、含イオウヘリセン分子を開発し、表面の機能制御に応用することにある。当該年度は、光学活性ヘリセンオリゴマーの溶液中での規則的構造変化を調べた。加えて、ヘリセンジチオールで固定化させた金電極素子の高圧電場によるショットキーダイオード特性について、金電極表面解析を行った。 (1)スルホンアミドヘリセンオリゴマーの構造制御:二重ラセン-ランダムコイル間の構造変化の温度効果を調べたところ、4量体オリゴマーは加熱によってランダルコイルに解離し、冷却によって再びラセン二量体会合した。この構造変化において、熱的ヒステリシス(TH)を発現することも見出した。THとは、温度上昇・下降過程で異なる現象を示すものである。スルホンアミドオリゴマーは冷却過程ではランダムコイル状態、加熱過程では二重ラセンで存在することを示した。非極性有機溶媒中で分子レベルのTHを示す分子を初めて見出した。併せて、スルホンアミドオリゴマーとの水素結合によりヘテロ会合形成を期待して設計したアミノメチレンオリゴマーに関する研究も進めた。アミノメチレンオリゴマーが酸・塩基によって二重ラセン-ランダムコイル間で構造変化することを示した。生体中でのpHに応じて機能on/offする物質への応用が考えられる。 (2)ヘリセンジチオールの金表面自己組織化単分子膜(SAM)解析:昨年度ヘリセンジチオールを固定化させた金電極素子が高圧電場の印加の向きに応じてダイオード特性を可逆的にスイッチすることを示した。今回、金表面のSAMをIRRAS測定してピークが検出でき、金表面にヘリセンジチオールが吸着されていることを示した。高圧電場の印加によってSAM分子が構造変化することにより電極注入障壁、即ち、電極の仕事関数が変化する。これによりプッシュバック効果の強度が変化し、可逆的スイッチング機能が実現したものと考えた。
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