平成24年度は、前年度までに確立したマグネシウムビスアミドを基軸とする新規複素環合成法を用いて、さまざまな天然物の合成研究を行った。 高度に置換されたイミノキノインドール骨格を有する、抗腫瘍活性天然物ディスコハブディンCの合成研究を継続して行った。前年度までに合成した三環性化合物に対するアリール基の導入については、近傍のBoc基を取り除くことで反応点の立体障害を軽減した基質を用いると、鈴木宮浦クロスカップリングが円滑に進行することが分かった。また、特徴的なスピロジエノン骨格に向けて、分子内求核置換反応を行った。しかし、反応条件や脱離基に関する検討にもかかわらず、目的とする化合物は全く得られなかった。反応点をより接近させるために、基質のアニリンとフェノール部位を環状カルバメートとして結んだ基質に対して同様に反応を行ったところ、予想通りスピロジエノン骨格の構築に成功した。現在、インドール上の保護基の脱保護を検討している。 テレオシジンBについては、上部ユニットの合成研究を行い、インドラクタムの合成に成功した。ベンザインを経由する9員環の構築は達成されていないが、計画当初に立案した、Cu触媒を用いるアミノ化反応を経て上部9員環ラクタムを形成することができた。今後は、下部ユニットの合成を進めることでテレオシジンBを全合成できると考えている。 また、ベンザインの発生に、Mgに対して2分子のTMPおよびリチウム塩の添加が必要である理由について計算化学を用いて考察を行った。予備的な結果ではあるが、上記の因子が塩基性を向上させているのではないかという示唆を得ている。 研究期間を通じて、これまで合成困難であった多置換含窒素複素環を有する天然物の合成により、極めて穏和な条件下ベンザインを発生させるマグネシウムビスアミドの有用性を示すことができた。
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