研究課題
クロトフォルボロンはヤトロファクルカス種子油から単離された5、6、7員環の炭素環が縮環したジテルペンである。類似骨格を有する天然物は数多く存在することから、クロトフォルボロンの全合成はこれらテルペノイドの統一的全合成戦略確立において重要である。本研究では、アルコキシ橋頭位ラジカルによる収束的な炭素骨格構築を鍵としたクロトフォルボロンの全合成研究を遂行した。 橋頭位ラジカルを用いた炭素-炭素結合形成は報告があるものの、アルコキシ橋頭位ラジカルを用いた例はこれまでにほとんどない。そこで、クロトフォルボロンの全合成研究に先立ちモデル化合物を用いたアルコキシ橋頭位ラジカルによる炭素-炭素結合形成を検討した。アルコキシ橋頭位ラジカルの適切な発生源を検討した結果、基質合成の簡便性とラジカル発生効率においてセレニドが最も優れていることが分かった。すなわち、橋頭位にカルボン酸を有する基質をバートンエステルへと変換した後、光照射下でジフェニルジセレニドを作用させることで橋頭位にセレニドを有する基質へと変換した。これ対してV-40存在下、トリフェニルスズヒドリドを作用させたところ、発生したアルコキシ橋頭位ラジカルは速やかに電子欠乏のオレフィンと反応し炭素-炭素結合を形成することを確認した。 本変換反応をクロトフォルボロンの炭素骨格構築に適用した。オキサビシクロ[2.2.2]オクタン骨格を有する化合物の橋頭位カルボン酸を同様の方法でセレニドへと変換した。その後、分子内にエノンを有する化合物に導いた後、上記ラジカル反応条件に付したところ、アルコキシ橋頭位ラジカルは速やかに分子内のエノンと反応し、クロトフォルボロンの5、6、7員環炭素骨格を与えた。以上のように、アルコキシ橋頭位ラジカルを用いた収束性の高いクロトフォルボロン骨格構築法を確立した。
1: 当初の計画以上に進展している
一年目の研究計画としてアルコキシ橋頭位ラジカルを用いた炭素-炭素結合形成反応の開発を挙げていたが、これは予定よりも短期間で遂行する事ができた。現時点では、上述したアルコキシ橋頭位ラジカルで得た知見をもとにした、鎖状のα-アルコキシ炭素ラジカルによる炭素-炭素結合形成反応の開発にも成功している。当初、アルコキシ橋頭位ラジカルに焦点を置いた研究を遂行する予定であったが、本炭素ラジカルの高い反応性と効率的な発生条件を見出す事ができたため、より汎用性の高い方法論へと改良することができた。また2年目に遂行する予定であったクロトフォルボロンの全合成研究では、現時点で最も困難が予想される炭素骨格構築を達成する事ができている。残す仕事は数工程での変換を経てクロトフォルボロンの全合成を完了するのみである。研究計画よりも進展は早く、また予定していなかった成果もあげる事ができている。
2年目の研究計画にあげている通りクロトフォルボロンの全合成を完了させる。クロトフォルボロンの特異な炭素骨格の構築には成功しているため、今後は炭素骨格上へのメチル基導入とヒドロキシ基導入をそれぞれ行い、全合成を完了させる予定である。その後はクロトフォルボロン類似化合物の全合成への応用を検討する。具体的には新しい標的化合物としてクロトフォルボロンと同じ5、6、7員環の縮環した炭素環を有するジテルペノイドであるレジニフェラトキシンの全合成を検討する計画である。
クロトフォルボロンの全合成を完了させるためには多段階(20工程以上)にて合成中間体を供給する必要がある。そこで研究費の大半を有機合成試薬や有機溶媒などの消耗品に充てる予定である。また得られた研究成果を発表するため、残りの研究費は論文作成費(英文校閲など)や学会発表のために出張費に充てる。
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