研究課題/領域番号 |
23790008
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
谷口 剛史 金沢大学, 薬学系, 助教 (60444204)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 鉄触媒 / ラジカル反応 / 分子状酸素 / C-H酸化 / 縮合反応 / 触媒反応 |
研究概要 |
安価で無毒なフタロシアニン鉄を触媒として、以下の新規反応を開発することができた。(1)ヒドラジン化合物を前駆体とするラジカル反応:さまざまなヒドラジン化合物から対応するラジカル種を発生させることに成功した。また、発生したラジカルは反応系中の二重結合と酸化的な付加反応を起こし、炭素-炭素および炭素-ヘテロ原子結合を形成させることができた。本反応は酸素と鉄触媒というクリーンな反応条件を使い、またラジカル生成時にヒドラジンから排出されるのは窒素ガスであることから、これまでにない環境調和型のラジカル反応であると考えられる。(2)酸素分子を酸素源とする直接的C-H酸化反応:酸素雰囲気化、いくつかの脂肪族アルケンをフタロシアニン鉄とヒドリド種で処理する一挙に1,4-ジオールが得られることを見出した。単純な不飽和炭化水素から1工程で1,4-ジオールを合成手法はこれまで皆無である。これはC-H結合の直接的な官能基化を含んでおり、かつ酸素源として理想的な分子状酸素を用いることができることから極めて効率的な分子変換の一例であると言える。(3)酸素を酸化剤とする酸化還元縮合反応:トリフェニルホスフィンとフタロシアニン鉄存在下で分子状酸素を酸化剤とした新規な酸化還元的エステル化反応を見出すことができた。この反応では10 mol%の4-メトキシピリジンN-オキシドを添加すると反応が劇的に加速され、最高94%収率でエステル生成物が得られることがわかった。生体の酸化酵素モデルと類似の高原子価鉄錯体が反応機構に関わっているものと考えられ、単純な酸化反応以外で本反応のような複雑な合成化学的手法に応用された例はほとんど知られていない。本反応はこの酸化酵素モデルの合成的価値を示した重要な例であると考えられる。現在、速度論解析に基づく反応機構解析を行っている途中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の「研究の目的」ではフタロシアニン鉄と酸素を用いる3つの反応様式を確立し、その応用を行う旨を記載した。本年度では特に、反応様式の基礎的な部分を明らかにし、それぞれの反応を確立させることを目的としていた。上の「研究実績の概要」にて記載した通り、3つの反応様式についてそのすべての反応条件を最適化し、基質の適用範囲を明らかにすることができたので、これらは新たな反応として確立できたと考えられる。一部の反応においては、その反応性に制限が見られるなど、解決すべき問題も明らかになったが、これは今後の計画の指針を決め、また若干の修正を行うための機会を得たと考えるべき性質のものである。したがって、現時点において研究はほぼ計画通りに進行しており、順調であると結論づけることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度で計画した反応様式を確立し、その反応性を明らかにすることができたので、そのさらなる応用やこの反応に基づいた新たな反応開発に着手する。まずは、他の基質や試薬を反応に取り入れることで合成できる化合物の適用範囲を広げること、環化反応など他の反応様式に応用すること、および詳細な反応機構を明らかにすること、といった基本方策に従って確立した反応のさらなる適用範囲の拡大やその本質を解明を目指す。個々の反応様式に関する具体的な方策は以下の通りである。(1)ヒドラジンを用いるラジカル反応において、種々のラジカル補足剤を反応系中に添加することで広い範囲の誘導体を得ることができないか検討する。また、本年度の研究により明らかとなった反応性の制限については別の鉄触媒(配位子の検討)を用いて解決できないか検討する。(2)直接的な1,4-ジオールの生成反応を応用して、水素以外の官能基を導入しつつラジカル的なC-H官能基化反応を進行させることを試みる。この目的のためには、トリエチルボラン等の既存のラジカル発生剤のほか、本研究で見いだされたヒドラジン化合物を応用できる可能性がある。(3)酸素を酸化剤とする酸化還元縮合反応については、その反応機構が複雑であり正確に推定できないため、優先的に速度論解析等を駆使して反応機構の解明を行う。その上で次に応用すべき基質や反応様式を決定する。以上が次年度で最低限推進すべき内容であるが、同時にまた、上記の適用範囲拡大にとどまらず、本反応をもとにして新たな反応を見出すことを模索する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究費の大部分を実験の遂行に必要な消耗品購入に充てる(1,250,000円)。特に新たな基質合成の原料や反応剤、および反応改良のための触媒等、試薬の購入が大きな割合を占めると考えられる。消耗品費として使われる経費のうち、その具体的な割合は、試薬類(酸素等、ガス類も含む):70%、その他(ガラス器具等):30%、と考えている。経費使用の時期としては、次年度の最初に現時点での研究計画において明らかに必要となる試薬類とその他の消耗品をある程度まとまった量で購入し、その後は研究の進行状況に応じてその都度こまめに購入していくことになるが、研究に新たな進展が見られる等、研究期間の終盤に新たな消耗品が必要になる場合も考えられる。そのためにある程度の費用はそのために残し、研究の終盤でいくぶんまとまった支出が行なわれることも考慮に入れている。また、本研究で得られた結果を国内での学会で発表するための旅費を計上している(50,000円)
|