研究課題/領域番号 |
23790012
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
宮本 和範 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (40403696)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | ビニルカチオン / 5員環 / 超原子価 / 臭素 |
研究概要 |
カルボカチオンのケミストリーは百年以上の長い歴史を持つ。ところが、これまで熱的な5員環ビニルカチオンであるシクロペンテニルカチオンの発生は、その不安定性のために多くの試みにもかかわらず達成されていない。我々は三価の超原子価臭素置換基が同族の超原子価ヨウ素置換基を遙かにしのぐ(予備的結果ではあるが約100万倍高い脱離能を示す)優れた脱離基であることを見出しつつあり、この超脱離能を用いればこの不安定反応種を発生できるのではないかと考え、研究を実施した。今年度我々は、シクロペンテニルカチオン発生の前駆体となるシクロペンテニルブロマンの有効な合成法を確立することに成功した。また、クラウンエーテルとの包接錯体とすることによってその構造をX線結晶解析により明らかにすることに成功した。各種スペクトル測定を行い、安定性や爆発性についても調べ、基本的な性質を明らかにした。更に各種溶媒中での熱的分解反応を行い、生成物を詳細に解析した結果、予期したとおり本反応がSN1機構で進行し、シクロペンテニルカチオンを発生していることを強く示唆していることがわかった。次年度は反応機構を裏付けるために、更に各種実験および計算化学的検証を行う予定である。今回得られた結果は発生させるのが非常に困難な不安定活性種の発生に三価の超原子価臭素置換基が使えることを実証できた1例であり、今後同アプローチを展開するにあたっての基盤的結果であると位置づけることができ、きわめて重要な結果と考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書の当初の計画では、シクロペンテニルブロマンの合成と性質の解明を到達目標として設定していたが、これを達成し、更にこのブロマンの加溶媒分解反応を行い、シクロペンテニルカチオンが発生することを示唆する結果を得ることに成功している。当初の予想を上回る結果であり、100%以上の達成度と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度はUV測定を利用した反応速度測定を行い、反応機構に関する知見をさらに集積する予定である。三価の超原子価イミノブロマンやブロモニウムイリドは紫外領域にモル吸光係数εが1万を超える強い吸収を示す。シクロペンテニルブロマンも同様に強い吸収を持つことが期待されるため、十分にこれは実施可能と考えている(実際に予備的結果が得られている)。分解反応速度が求核試剤の濃度に依存しない一次反応であることを確認し、反応機構の強力な根拠となる、反応の活性化エンタルピー、エントロピーを求め、溶媒の極性効果、重水素同位体効果について調べる予定である。分子軌道計算による計算化学的検証も行いたい。実験結果と計算結果を比較検討することにより、さらに緻密な解析が可能になると考えられる。具体的には遷移状態の構造(結合距離、角度など)から、シクロペンテニルカチオンの基本的性質を明らかにできると期待している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
上記のとおり、反応速度を測定するためのUV測定実験を行うため、適切な分光光度計ないし同周辺機器を購入したいと考えている。また、本実験には非常に高い純度の試薬および溶媒が必要であるが、これら消耗品購入にも本予算を充てたい。分子軌道計算を円滑に行うため、新たに演算能力の高いコンピューターの購入も予定している。旅費については、国際学会(京都)、2回の国内学会(東京)での発表を予定している。結果の論文投稿も早急に行う予定である(その他経費)。ところで、次年度への予算繰り越しが生じたのは、分光光度計の購入の必要の是非の判断が実験結果に大きく依存していたためである。実際に必要であるという判断ができたのは年度末であり、すでに50万以上の機器の購入は困難な状況にあった。
|