研究課題/領域番号 |
23790013
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
臼井 一晃 九州大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (80553304)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ヘリセン |
研究概要 |
【研究概要】触媒的不斉合成研究は医薬品産業に格段の進歩をもたらしてきたが、更なる発展のために概念的に新しい触媒体系の樹立と創出が求められている。この課題に対し、申請者は「不斉反応を自在に操ることのできる触媒」をコンセプトとし、多環式芳香族化合物であるヘリセン分子のラセン不斉を活用した光制御型の不斉塩基触媒の開発研究を展開することで従来にない機能性触媒の創製と不斉反応への展開を目指した研究を行っている。以下の3点を各論として研究を実施する。[1]光制御型ヘリセン触媒の創製と物性評価、[2]触媒の反応性検討と不斉反応への応用研究、および[3]光制御型ヘリセン触媒の立体選択的合成。【研究実施計画】[1]ヘリセン骨格への効率的なフォトクロミック分子(アゾベンセン)の導入を検討する。さらに合成した光制御型塩基触媒の光異性化挙動に関する物性評価を行う。[2]本塩基触媒の有用性を確かめるため、触媒の塩基性を利用したヘンリー反応をモデル反応として条件検討を行う。[3]ヘリセン前駆体と効果的にジアステレオ異性電荷移動錯体を形成するキラル分子を利用して、立体選択的なヘリセンの合成法を開発する。【研究進捗状況】平成23年度は項目[1]を中心に行った。項目[1]:ヘリセン骨格へのアゾベンゼン(光応答性部位)の導入に成功した。更に合成したアゾベンゼンを有するヘリセン分子に特定波長の光を照射することで、可逆的な光異性化挙動の変化を紫外可視吸収スペクトルの形状変化により観察することができた。更に、光定常状態におけるトランス/シス異性体比をHPLCにより算出することにも成功した。項目[2]に関しては、光応答性分子触媒による各種基質を用いたヘンリー反応の進行をNMR解析により確認することができた。項目[3]に関しては予定通り24年度に実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度は研究実績概要に記した各論[1]および[2]を中心として研究を行うことを計画した。各論[1];当初の計画通り、臭化ヘキサヘリセン誘導体とN-Bocアリールヒドラジンとのカップリング反応に続く、ヨウ化銅(I)を用いた酸化反応によりアゾベンゼン部を有する光応答性ヘリセン型有機触媒の構築に成功した。また、光応答性ヘリセン型有機触媒は塩化メチレン溶液中、特定波長の光を照射することで可逆的な光異性化挙動示すことが紫外可視吸スペクトルにより観測することができた。更に、トランス/シス異性化現象の継時的変化並びに光定常状態におけるトランス/シス異性体比をHPLCにより算出することにも成功し、本触媒が特定波長の光に対して応答性を示すことを見出した。各論[2];種々基質を用いて光応答性ヘリセン型触媒によるヘンリー反応に対する触媒能をNMR解析により確認することができた。しかしながら、トランス型(不活性型)とシス型(活性型)における反応進行に優位な差がみられなかった。以上、23年度に計画通り各論[1]および[2]を中心的に研究を行うことはできたが、各論2において計画通りに進めることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度に記載したように、各論[2]において光応答性ヘリセン型触媒によるヘンリー反応の反応性制御の点で、トランス型(不活性型)とシス型(活性型)との間に反応性の明確な差をNMRの継時的観測により見出すことが出来なかった。これはアゾベンゼンによる触媒部位(3級アミンの非共有電子対)の立体的遮蔽が効果的になされていないことが原因の一つとして挙げられる。このことから、アゾベンゼン部に嵩高い置換基を有する各種誘導体を合成し、再度、ヘンリー反応をモデル反応として触媒の反応制御能を検討することを予定している。また、反応制御能を確認できしだい光応答性ヘリセン型触媒のキラルHPLCカラムにより光学分割を行い、光学活性体を用いて不斉反応へと展開する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
現有の研究設備(NMR, IR, HPLC, MS, X線、旋光計など)を使用して実験を行うので、設備備品に経費を費やさず、主として試薬・ガラス器具を始めとする消耗品への充当に重きを置く。具体的には、市販されている化学物質を分子レベルで構造修飾して目的の機能を持つ有機化合物に分子変換することが本研究の大部分を占めることから、市販の化学物質の購入費、構造修飾用の試薬、反応及び反応後の目的物質の抽出に用いる有機溶媒、ガラス器具等の消耗品を購入に研究費を使用する予定である。また、他のグループの研究に関する情報をいち早く仕入れ、自分自身の研究成果を随時発表するために、国内・海外を問わず積極的に学会等に参加するための旅費にも研究費を活用する。
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