プロテインチロシンホスファターゼ1B(以下、PTP1B)はインスリンシグナル伝達経路の負の制御因子であり、PTP1B 阻害剤は新規糖尿病治療薬として期待されている。本研究は新規糖尿病治療薬シーズの発見を研究目標として、漢方薬、生薬および天然有機化合物ライブラリーを用いてPTP1B阻害活性を評価した。 フラボノイド化合物ライブラリーから、生薬クジン由来のフラボノイド3種を新規PTP1B 阻害剤として見出した。一方、beta-carbolineとcanthinone型アルカロイド化合物ライブラリーから、canthinone型アルカロイド6種を新規PTP1B阻害剤として見出した。これら活性成分のうち、生薬ニガキから単離されたpicrasidine Lは競合的にPTP1Bを阻害し、加えてPTP1Bの選択的阻害剤であることを明らかにした。さらにpicrasidine Lはヒト肝癌細胞HepG2において、インスリン刺激によるAktのリン酸化を促進し、細胞内インスリンシグナリング増強作用も認められた。Picrasidine Lは今後新たな糖尿病治療薬創製のリード化合物として期待される。 一方、インスリン抵抗性2型糖尿病の治療への新たな臨床応用の可能性を巡って、147種の日本の医療用漢方製剤のPTP1B阻害活性を評価した。大黄甘草湯、麻子仁丸、桃核承気湯、桂麻各半湯そして調胃承気湯の順に濃度依存的に高いPTP1B阻害活性を示した。PLS法で得られた回帰モデルより、構成生薬の大黄がこれら漢方製剤のPTP1B阻害活性に最も高い寄与度を示した。PTP1B阻害を作用機序としたIR-T2DM治療の臨床治療薬がまだない現状から、今後のこれら漢方製剤の臨床応用の可能性が期待される。
|