テトラシアノシクロペンタジエニドアニオンは超強酸共役塩基の中では珍しく、直接官能基化容易な置換基を有している。我々はこれまでの研究において、スルホンとテトラシアノチオフェンを用いた効率的なテトラシアノシクロペンタジエニド類の合成法を確立している。本年度は以下の点について研究を遂行した。 1.官能基変換によるテトラシアノシクロペンタジエニルアニオンに共役するケトン類の合成:エステル、ニトリル、アミド、フェニル、アルキルなど様々な官能基導入法は確立していたものの、ケトンだけは従来法で導入できなかった。広い一般性を担保するために、Weinrebアミド法やClaisen縮合を用いてこれを合成する方法を確立した。 2.ヒドロニウムカチオンの可脂溶化を指向した触媒利用:テトラシアノシクロペンタジエニド塩が比較的高い脂溶性を有していることに着目し、通常は有機溶媒には溶けないヒドロニウムカチオンをジクロロメタン層に溶解させるため、1 M塩酸、ジクロロメタンの2相系反応に各種テトラシアノシクロペンタジエニド塩を加えて各種反応の検討を行った。第2級アルコールのTBSエーテル加水分解反応においては、加えるテトラシアノシクロペンタジエニド塩上置換基の脂溶性が高いほど、加水分解反応は大幅に向上した。一方エポキシドの酸による開環反応においては、反応過程で生じるカチオンとテトラシアノシクロペンタジエニドアニオンが反応を起こしてしまい、途中から反応速度の大幅な低下が観察された。 3.テトラシアノシクロペンタジエニド類のナトリウム塩を用いた向山アルドール反応:超強酸共役塩基であるという特徴を生かすために、ナトリウム塩をマイルドなルイス酸として用いた向山アルドール反応の検討を行った。結果、マイナス80 °Cという超低温において、同塩がルイス酸性を発揮し、反応を促進させることが分かった。
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