研究概要 |
芳香族化合物は医薬、農薬の基本骨格であるだけでなく、そのオリゴマーやポリマーは近年、材料科学分野で実用化されているため、有用な前駆体となる高度に官能基化された芳香族化合物類の高効率的な合成法の開発は重要な研究課題である。我々はこれまでに、毒性の高い重金属酸化剤に代わる、安全で多様な反応性を有する3価の超原子価ヨウ素化合物、特にphenyliodine diacetate(PIDA)やphenyliodine bis(trifluoroacetate)(PIFA)を用いた種々の芳香族化合物のカチオン種を経由する、新規炭素-炭素結合形成、官能基化反応を開発すると共に、各種生物活性天然物の合成における鍵反応として利用してきた。さらに、最近ではヘテロ芳香族化合物へと本手法を展開し、様々なヘテロ芳香族化合物の、ヨードニウム中間体を経由する酸化的クロスカップリング反応の開発に成功している(J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 1668.)。本年度はその応用として、まずチオフェン環を主骨格として持つ、光増感型の太陽電池の素子であるMK-2の簡便合成法の開発に成功した。また、その他の芳香族化合物への応用として、フェノール類であるカテコールを特定のプロトン酸を添加し、超原子価ヨウ素反応剤と反応させると、ディスコチック液晶材料の中間体、機能性有機材料の原料として有用な2,3,6,7,10,11‐ヘキサヒドロキシトリフェニレン(HHTP)が得られることを見出した。本反応は一般的な重金属酸化剤である、タリウム(1II) 、パナジウム(V) 等の重金属酸化剤を用いない、非常にクリーンな反応である。また芳香族化合物の修飾だけでなく、超原子価ヨウ素反応剤を用いた新規官能基化反応を開発し、抗腫瘍活性天然物ラクトナマイシンの全合成達成、不斉合成を達成すべく研究を行っている。
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