研究課題/領域番号 |
23790031
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
濱本 博三 近畿大学, 薬学部, 講師 (40365896)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | リパーゼ / 高分子 / イオン液体 / 光学分割 / 不斉合成 / イオン性ポリマー |
研究概要 |
本研究の主な目的は、イオン性高分子の特性に着目した新しい酵素触媒反応システムの設計を行い、酵素反応の有用性を活かした有機反応法を開発することである。平成23年度の主要な研究内容は、イオン性高分子を活用する酵素触媒反応法を確立するための基盤研究として(1)イオン性高分子が酵素触媒に与える影響の評価・解析と(2)イオン性高分子を用いる酵素反応系の設計研究の実施であり、以下にその成果概要を示す。(1)これまでに当研究室ではイオン性高分子の合成に成功し、各種反応の有用な反応場となることを明らかにしてきた。一方、酵素反応においてイオン性反応場において酵素触媒安定性が向上することが明らかにされている。そこで、これまでの高分子触媒開発の知見に基づいて種々のイオン性高分子を合成し、そのイオン性高分子存在下における酵素触媒であるリパーゼの安定性の評価を行った。その結果、四級アンモニウム塩部位を有するイオン性高分子を用いた場合にリパーゼ(Lipase PS)が安定化し、そのカウンターアニオン塩の選択に応じて酵素触媒活性が変化することを見いだした。また、四級アンモニウム塩型イオン性高分子に対するリパーゼの保持も可能であった。(2)四級アンモニウム塩型イオン性高分子を用いて高分子溶液を形成し、酢酸ビニルをアシル化剤とするリパーゼ(Lipase PS)によるアルコールのエステル化反応を行った。その結果、従来の有機溶媒中と比べても反応は効率よく進行しさらに、回収したリパーゼはその活性を損なうことなく再利用できることを見いだした。 以上より、イオン性高分子を活用する酵素触媒反応法を確立するための基礎的な知見を得ることに成功した。特に、本法は、各種生物活性物質合成における応用やハイブリッド触媒の開発研究(平成24年度研究計画)において高い有用性が見いだせるものと期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画における主要研究テーマは、(1)イオン性高分子溶液中での酵素触媒反応システムの検討と(2)酵素触媒とイオン性高分子ゲルを用いる固相触媒反応システムの開発であり、そのためにイオン性高分子が酵素触媒に与える影響の評価・解析とイオン性高分子を用いる酵素反応系の設計研究を実施した。 イオン性高分子が酵素触媒に与える影響の評価・解析においては、予定していた種々のイオン性高分子を合成することができ、当初の予測通り、イオン部位の種類と組み合わせ選択がリパーゼ活性に大きく影響を与えることがわかり、また、各種アクリルアミドモノマー(とりわけイソプロピルアクリルアミド)をその高分子組成に組み込むことによりその操作性の向上を可能にした。さらに、SEM測定による解析により構造安定性と相関した結果を導けることも判明し、今後の研究遂行における固相設計に対する有益な知見を得ることにも成功した。 上記の評価・解析の結果に基づいたイオン性高分子を用いる酵素反応系の設計としてテーマ(1)のイオン性高分子溶液中での酵素触媒反応システムとテーマ(2)のイオン性高分子ゲルを用いる固相触媒反応システムの開発を行ったところ、それぞれの反応系においてリパーゼ触媒を従来の有機溶媒を用いる反応と比べても優れた活性を示し、回収と再利用が可能になることを明らかにした。 本研究の現状の課題は、イオン性高分子環境が酵素触媒に対する影響をより詳細に解析する手法の検討であり、今後蛍光プローブ分子導入した高分子の活用等が必要になると考えられる。一方、次年度予定のハイブリッド触媒を設計するための予備試験として、酵素と化学触媒をともにイオン性高分子に保持する試みを行い、すでにその手法を見いだすことに成功している。以上を総合すると本研究は、当初計画に沿って研究が進行しており、平成23年度の達成目標が満たされていると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究成果により、イオン性高分子存在下、リパーゼ等の酵素触媒の安定性が向上し、有用な酵素触媒反応システムの開発が可能になることを明らかにした。さらに、平成24年度に実施を計画している酵素触媒と金属触媒のハイブリッド型固相触媒の創製研究に対する予備試験を行い、酵素と化学触媒をともにイオン性高分子に保持することにも成功している。そこで、平成24年度は、これまでの研究成果を踏まえ、(1)リパーゼと各種ラセミ化触媒を組み込んだハイブリッド型固相触媒の設計と動的速度論分割反応への応用と(2)リパーゼ担持型イオン性高分子又はハイブリッド型固相触媒の実用的活用法の展開と生物活性物質合成への適用を遂行する予定である。(1)リパーゼを用いる有機反応研究においてこれまでに各種ルテニウム触媒やバナジウム触媒等のラセミ化触媒を用いる反応により動的速度論分割反応が報告されているが、リパーゼの使用できる条件が限られているため制約が多い。一方、イオン性高分子にリパーゼを担持するとその安定性が向上し、高分子による保護効果も期待できるため、これまで使用できなかった金属触媒との組み合わせが可能になったり、その汎用性が拡大することが期待できる。そこで、種々の金属触媒と組み合わせたハイブリッド触媒の設計とその特性をいかした反応システムの開発研究への展開を行う予定にしている。なお、これらの研究においては金属触媒の挙動等を把握するため各種プローブを導入した高分子の活用やXPS(X線光電子分光法)等による評価が有効と考えている。(2)本研究で見いだした手法は、反応手段、操作、反応装置等の工夫により、より実用的な展開が可能になると考えられる。また、最新の材料(分離材料・膜材料・生体材料)化学研究における高分子設計技術の活用は有効と考えており、これらの知見をいかした高機能化も視野に入れた展開を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本課題を次年度の研究計画に従って研究を実施するためには、様々な材料用品の購入が必要になり、研究費の大部分を用品費に使用する計画にしている。主な、内容と目的は次の通りである。・試薬類:各種イオン性高分子を合成するための高分子原料と重合反応剤等を必要とする。また、各種リパーゼおよび、酵素の精製に使用する酵素精製用キットも必要になる。さらに、次年度には蛍光プローブ試薬や種々の金属触媒(動的速度論分割反応用)を購入する計画にしている。・ガラス器具類:本研究では、通常の有機合成に必要とされる一般ガラス器具に加え、高分子合成においては、目的とする高分子(直鎖・架橋)に応じた反応器が必要になる。また、高分子特性をいかした反応の実用化検討においてもポリマー成型用の器具類や反応用特殊ガラス反応器が必要になると考えている。・その他の消耗品等:本研究の遂行にあたり、通常の有機合成に必要になる汎用の消耗品に加え、高粘性媒体攪拌用の強力攪拌子、濾過用フィルター等が必要であり、光学純度を決定するためのHPLC用光学活性カラム等の購入を計画している。上記の用品費に対する使用以外に、学会参加(1回程度)を行い研究に対する情報収集を行う必要が生じると考えている。なお、研究に必要な測定機器や反応用の装置類等は現有のものでまかなう予定である。
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