化合物の持つ本来の反応性を逆転させる極性転換反応は、通常形成困難な結合を形成できる非常に魅力的な反応である。前年度までに様々な求核種をケトンおよびアルデヒドのα位へ導入する反応の開発を行った。まず不斉化への検討を行った。様々な市販の不斉リガンドを共存させて反応を検討したが、不斉反応は進行しなかった。そこで、キラルなイソキサゾリジン類を合成し、ジアステレオ選択的極性転換反応を検討した。5-t-ブチルイソキサゾリジンを用いるとわずかながら不斉収率が向上したため、現在もさまざまな置換基を有するイソキサゾリジンを用いて検討中である。 また、アルデヒドの極性転換反応において反応機構の考察より中間体としてイミンが生成していることがわかった。このイミン中間体をさらなる求核試薬で捕捉することができれば、隣接する2つの炭素上に2つの求核種を導入することができると考えられる。そこで極性転換反応を行った後、反応液にそのまま第2の求核試薬として様々な有機金属試薬を加えた。その結果、アリルマグネシウムブロミドを用いると目的の反応が進行することが明らかとなった。鎖状のアルデヒドだけでなくオレフィンやフェニル基のような官能基を含む基質でも効率良く反応は進行し、最大75%の収率で目的の化合物が得られた。この反応は隣接する2つの炭素上に求核種を連続的にワンポットで導入することが可能であり、また第2の求核種としてその後の官能基変換が容易なアリル基を導入できる興味深い反応である。
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