研究課題/領域番号 |
23790042
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 卓見 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (20451859)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | マルチドメイン蛋白質 / 過渡的相互作用 / 膜タンパク質 / タンパク質―タンパク質相互作用 / NMR / 交差飽和法 / Protein Trans-Splicing / Segmental labeling |
研究概要 |
CheA全長の1H-15N TROSYスペクトルを測定した結果、約150個のシグナルが高感度で観測された。各種三重共鳴実験を行った結果、観測されたシグナルは主にP1, P2ドメインに由来することが明らかとなった。また、in vitro PTS 法により、P1ドメイン、P2-5ドメインの一方のみを選択的に標識する方法を確立した。そこで、全長CheA, CheYそれぞれを観測対象とするCS実験を両方行った。その結果、P2ドメイン-CheY複合体の結晶構造における結合界面上の残基の強度減少に加えて、その半分程度の大きさの強度減少が、P1ドメインのHis48とCheYのAsp57の周辺の残基にもそれぞれ観測された。したがって、P1ドメインとCheYが、反応部位同士で相互作用していることが示された。次に、全長CheAならびにP1ドメイン単独に対してCheYを滴定する実験を行った。その結果、P1ドメイン単独では解離定数が約5×10-4 M に対応する化学シフト変化が観測された。一方、全長CheA中のP1ドメインのシグナルには、見かけの解離定数が10-6 M程度と5×10-4 M 程度に対応する、2相性の化学シフト変化が観測された。以上の結果に基いて、P1ドメインとCheYは、複合体内で結合することにより、はじめて生理的条件において、反応部位同士が近接する、反応に有利な相互作用を形成すると考えた。このような結合様式は、結合と解離を迅速に繰り返して、その結果素早く次の反応を開始する上で重要であると考えた。また、P1ドメインとCheYの複合体内相互作用は、平衡定数Keqが1のオーダーの平衡にあることが示唆された。この平衡は、P1ドメインが、CheYの活性部位とも、P4ドメインのATP結合部位とも相互作用して、自己リン酸化反応とリン酸基転移反応の両方を効率よく進める上で重要であると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の平成23年度の予定の通り、CheA, CheYのNMR解析が進行し、目標であった、CheA-CheYリン酸転移反応機構の解明を達成した。本研究において、CheAのP1, P2-5ドメインの選択標識体を調製する際、当初、最も広く行われているEPL法を適用した。しかし、収率が低いため、試料調製に多くの時間と労力が必要であった。そこで、ヘルシンキ大学の岩井秀夫博士との共同研究により、in vitro PTS法を適用したところ、十分な収量および標識率の標識体を迅速に調製することが可能となった。このような事例は報告されていなかったため、その成果をJournal of Biomolecular NMR誌に発表した。したがって、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) CheAのP3、P5ドメインのNMRシグナル観測法の確立:P3, P4, P5のメチル基を選択的に標識した試料を調製して、ATP結合部位を持ち自己リン酸化反応を行うP4、CheWやMCP結合部位を構成すると考えられているP5、およびP3のNMRシグナルを観測および帰属する。(2) CheA-CheW, CheA-MCP, CheW-MCP結合様式の解明:転移交差飽和法により、CheA-CheW複合体におけるCheA, CheWそれぞれの結合界面, CheA-MCP複合体におけるCheA上の結合界面、CheW-MCP複合体におけるCheW上の結合界面を同定する。(3) CheA-CheW-MCP三者複合体における結合様式の解明:(2)で用いた試料に、2H標識MCP, CheA, CheWを添加して転移交差飽和実験を行うことにより、三者複合体形成に伴う、結合界面の変化を調べる。(4) 三者複合体状態におけるCheAのP1-P4相互作用の解析:2H標識MCPおよびCheWが存在する条件で、23年度のような交差飽和実験やTitration実験を行うことにより、三者複合体におけるP1ドメイン上のP4ドメイン結合部位、ならびに結合・解離の平衡を決定する。(5) 三者複合体モデルの構築:(3), (4)の結果に基づいて、三者複合体のモデルを構築する。(6) リガンド結合状態の三者複合体の解析:MCPリガンドを添加した状態において、(2)~(4) の解析を行い、三者複合体中のMCPへのリガンド結合によるCheAの構造変化を調べる。得られた結果に基づいて、CheAの自己リン酸化活性が制御される機構を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で使用するタンパク質相互作用解析装置や、タンパク質試料調製装置は、申請者の所属する研究室において既に稼動中である。そのため、設備・備品費の申請はない。今年度も、前年度に続き、安定同位体(2H, 13C, 15N)標識したCheA, CheW, MCP, CheYを大量に調製する。したがって、安定同位体試薬(2H2O、2H, 15Nセルトン、2Hグルコースなど)や、精製に用いるクロマトグラフィー担体等の消耗品に多大な経費が見込まれる。当研究では、申請者の所属する研究室の機器を用いて実験を行うが、NMRやFPLC、遠心器、凍結乾燥機などは随時修理やメンテナンスが必要となるため、そのための費用を計上する。また、旅費については、学会での成果発表を予定している。
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