研究課題/領域番号 |
23790045
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 沢 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (70398246)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | シトクロムP450 / 国際研究者交流 / フランス / CYP / CPR / 時間分解測定 / シミュレーション / 共鳴ラマン分光法 |
研究概要 |
申請書に記載した以下の各項目に従って平成23年度の研究を遂行した。テーマ1:CYP3A4および1A2の単離精製 計画に記載したようにシャペロンを用いた発現系を検討した結果、タンパク質の発現量は上昇したが、ほとんどが不活性型であった。一方で、微量に取れた3A4を時間分解測定したところ、開始数分で活性型から不活性型へ、さらに変性も確認出来た。そこで、より低温下でのタンパク質獲得が必要であると考え、培養時の温度を下げるなどの条件検討を行ったところ、若干の改善が認められた。現在は1A2と併せ、低温での培養精製条件を検討中である。テーマ2:薬物結合に関する情報を得るため構造解析 現状で獲得したCYP1A2と3A4について、薬物や癌原性物質の結合の有無による結合部位の接近について検討するため、共鳴ラマンスペクトルを測定し、基質の接近に関する知見を得た。一方、X線結晶構造解析を試みる予定であったが、研究科現有装置の故障および修理費の問題から、本計画を代謝活性の評価系へと移行させることとした(テーマ4で詳述)。テーマ3:薬物や化合物の代謝部位への接近 2回におよぶ渡仏によって、現地での時間分解スペクトルの測定を行った。測定条件および手法の確立のために測定したCYP2C9および2C19では興味深い結果が見られ、同手法を用いることで基質の結合に関する知見が得られることが確認出来た。一方で、3A4については先述したように不活性型への以降が見られたため、温度の条件やタンパク質の安定な存在条件など、各種検討中である。テーマ4:代謝活性評価系の構築 代謝活性の簡便な測定系を確立するために、シトクロムP450還元酵素を可溶性のタンパク質として獲得するため、膜結合領域を欠損させた変異体として設計し、大腸菌を用いて大量に獲得することに成功した。また膜結合領域を保持したままの還元酵素についても検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3A4の野生型を活性型として獲得するための発現量が少ないため、単離精製には改善が必要である。当初の計画以上に条件検討が必要であり、その点は達成には至っていない。また、前述したように当研究科現有のX線結晶構造解析装置で分解能の上昇が見られない問題が生じ、その修理には数百万単位の金銭が必要と言われている。現在、修理が見送られているため、容易には結晶の回折像を得られない状況である。一方で下記「今後の研究の推進方策」にて記載するように、代謝活性に着目して研究を遂行することで、これまでの研究の達成度の遅れを、違う側面から取り戻すことが可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
結晶構造解析への研究展開が容易ではない状況を踏まえ、当研究を活性測定を主とする方向へと舵をとる。まずは、3A4および1A2の野生型について、活性を有した状態で大量に獲得することを検討する。培養および精製を低温下で行うことはもちろん、精製に用いる緩衝液などもさらに検討することで、活性を保持した状態で精製を出来ると期待される。一方、先に述べたように、研究科で現有の装置の故障によって、結晶構造解析への検討が難しい中、我々はかねてより調製を試みていたシトクロムP450還元酵素の膜結合領域を欠損させた変異体について、活性を保持した状態で獲得することに昨年成功した。また、今年に入り、膜結合領域を有する状態でも会合して変性することなく精製できる手法を新規に構築し、現在は更なる良好な条件を模索している。本手法が確立された際には、これまで膨大なコスト(年間、還元酵素の購入のみで数百万円)のため研究を断念していたシトクロムP450との相互作用に関する研究をも遂行することが可能となり、SNP変異体や様々な薬物の代謝に関する重要な知見が得られることが十分に期待できる。そこで、まずは膜結合領域を有する野生型のシトクロムP450還元酵素の獲得を目指し、そこから更に、シトクロムP450と還元酵素との結合親和性へのSNP変異の影響を検討する。本測定が確立されれば、昨年度に行ったシトクロムP450単独と薬物との結合性に関する時間分解測定を、さらに還元酵素の接近による薬物導入部位への障害の有無など、これまで全く明らかにされていない新たな知見を得るためにも応用可能となることが十分に期待できる。以上の測定を行い、最終的に薬物の結合における短時間でのシトクロムP450の構造学的知見および定常状態での代謝活性などの評価を行い、総合的に、新規な薬物代謝活性評価系の構築に貢献する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前項でも記載したように、昨年度の後半にかけて、申請者はシトクロムP450の還元酵素に着目し、その精製を行うことで研究費としての大幅な削減を可能としつつ、今日までに未だ確立されていない新規な薬物代謝活性評価の簡便な測定法の構築を目指している。そこで、研究費の主な使途としては、シトクロムP450および還元酵素の野生型および膜結合領域欠損変異体の二種を、各々大腸菌を培養して精製することによって獲得する。培養に用いる各種試薬および精製に用いるNi-NTAアガロースゲル(GEヘルスケア)、さらに野生型にはCosmoゲル(ナカライテスク)を用いて精製を行う。一方、昨年度でも実施した時間分解測定を今年度は還元酵素の有無による影響としてSNP変異体共々、実施する。申請時には測定するタンパク質を輸送して現地での測定を協力者に依頼することを検討していたが、実際の測定が非常に難しいことと、昨今のヨーロッパの経済状況から、研究従事者を当プロジェクトに容易に割けない現状から、申請者が渡航して自ら測定および解析を行う。なお、渡航および滞在にかかる費用と、低温下での輸送費用との差異は大きくないことから、今年度も大幅な経費計画の見直しは必要としない。最後に、昨年度と同様、CYP1A2および3A4の培養および精製に、昨年度に用いた各種培養および精製試薬を計上する。
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