研究課題/領域番号 |
23790045
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 沢 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (70398246)
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キーワード | 時間分解スペクトル測定 / シトクロムP450 / 代謝活性 / 基質認識 / 結合親和性 / 薬物代謝 / 部位特異的変異 |
研究概要 |
研究計画において、申請者はCYPとその還元酵素であるCPRとの相互作用に着目して研究を推進してきた。その中で、CPRについては完全長のものを発現および精製することに成功したため、まずはCPRが既製のものと違いがないことを確認するため、CYPの代謝活性の評価へ用いることとした。一方、CYPに関して精製および活性の有無の確認段階において興味深い知見が得られたため、本研究を主にCYPに関するものとした。3A4の獲得により、代謝される基質としてアミトリプチリンを用いて測定を行った。また、比較対象として、同様にアミトリプチリンを代謝するとされる2C19および2D6についても測定を行った。精製したCPRにおいてもCYPへの電子供給が行われることを示す代謝反応が確認された。結果、代謝が薬物の化学構造に依存して起こっていることが示唆され、各分子種の貢献度に関する知見が得られたため、論文として印刷公表に至った(T. Z. Attia, T. Yamashita, et al., 2012)。一方、これら三つの分子種2C19、2D6、および3A4について動的な知見を得るためにフランスのEcole Polytechniqueにおいて時間分解スペクトルの測定を行った。この際、主要な分子種として当研究室ですでに発現系が確立されていた2C9を用い、2C9の基質であるジクロフェナクを結合させ、基質存在の有無による一酸化炭素の結合への影響を精査した。その結果、昨年度に見られた有意な差が、2C9においては基質の存在によって、解離した一酸化炭素がより多く再結合を行うが、相同性が極めて高い2C19に対してアミトリプチリンを存在させた条件では負の相関が見られることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度にCYPを主とする研究に方向転換を行い、基質の代謝に関与する分子種に関する研究を実施した。 この中で、静的な条件における測定において、2C19、2D6、および3A4に着目することで基質の代謝に貢献する分子種の割合には、基質の構造が大きく寄与していることを示唆することが出来た。また、予てより発現および精製方法を検討していた完全長CPRの獲得にも成功した。1A2および3A4の発現および精製条件の更なる検討が必要ではあるものの、現時点での測定に必要な量の供給には何ら問題はない。 一方、動的な知見を得るために行った測定から、2C9と2C19で有意な差が認められており、昨年度の測定によって、2C9と2C19での挙動が全く逆であることが明らかとなった。本結果が薬物に依存するものなのかCYP分子種の違いによるものなのかを同定するため、今年度は変異体を調製して精査する。現在までに変異導入部位の選択および変異導入するアミノ酸について検討が終了しており、すぐにでも変異体の作製および各種測定を実施する準備は整っている。 先に述べた静的な条件での測定に関してはすでに論文という形で印刷公表に至っているため、研究をある程度は達成出来ていると考えている。また、昨年度より引き続き、1A2および3A4の更なる良好な獲得条件を検討中であり、上記の2C9および2C19での動的な知見を得るために、現時点では研究協力者であるフランスのVos博士と日程調整を試みながら、測定に必要な2C9および2C19の獲得を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
『研究実績の概要』でも詳述したように、申請者はこれまでにCYPの2C19、2D6、3A4の三つの分子種に着目し、静的な条件下での薬物代謝への貢献度を明らかにしてきた。そこで、次に動的な知見を得ることを主な今後の研究目的とし、その推進方策として、2C9と2C19という相同性が90%以上と非常に高い二つの分子種に着目し、分子種間で異なるアミノ酸残基に着目して変異を導入することで、薬物の結合性に及ぼす影響を検証する。変異を導入するアミノ酸残基として、2C9が主に酸性薬物の、2C19が塩基性薬物の代謝に関与するとの報告に着目し、二つの分子種間でアミノ酸が酸性および塩基性として異なる二つの残基、72位と241位に着目し、それぞれを入れ替えるように変異を導入することで、2C19に近い2C9、2C9に近い2C19を作製する。変異の導入については現有のDNAシークエンサーで確認し、変異体を調製した後に、まずは紫外可視分光光度計および共鳴ラマン分光計を用いて静的な条件下での構造学的な知見を得た後、それぞれの酸性および塩基性薬物の結合性および代謝活性への影響を精査する。 得られた結果のうち結合親和性の値を用い、動的な知見を得るためにフランスで薬物の存在および非存在下で、レーザーによる光解離後の一酸化炭素の再結合を時間分解スペクトルの測定によって追跡すると共に、分子動力学的シミュレーションによって測定の結果を検証することで、アミノ酸残基の違いが、どのように基質の認識に関わっているかを分子レベルで解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究の推進方策で述べた内容に従い、2C9と2C19に関して変異体を調製し、各種分光学的測定および代謝活性測定を行う。このため、まずは変異体の調製に用いる変異導入試薬(~100千円)によって2C9の変異体を二種類、2C19の変異体も二種類を調製し、計四種の変異体を用い、野生型と共に比較検討を行う。調製した変異体については、大腸菌を用いて培養(培地作製用試薬として~100千円)を行い、回収した菌体を破砕後、各種カラム樹脂を用いて精製を行う(ハイドロキシアパタイト樹脂など、~100千円)。 精製によって獲得された2C9および2C19の各種変異体に関しては、現有の紫外可視吸光光度計や共鳴ラマン分光計などを用いて性質を調べた後、代表的な薬物数種について代謝活性能をUPLCおよびHPLCを用いて測定(主にCPRの培養および精製に用いる試薬として~100千円)し、変異による影響を静的な側面から検討する。その後、動的な知見を得るために、フランスのEcole Polytechniqueにおいて研究協力者であるVos博士の協力の下、2C9および2C19それぞれの野生型および変異体に関して、薬物の非存在下および存在下において時間分解スペクトルの測定を行う(~160千円)。なお、昨年度の研究方策でも詳述したように、測定するタンパク質の低温輸送にかかる費用と申請者自身の渡仏にかかる費用にほとんど差がなく、現地で実際に測定に従事するものがいない現状から、申請者自身が渡仏して測定に従事する。 以上、静的および動的な条件において各種測定を行い、得られた結果をまとめて論文として印刷公表する(~10千円)。
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