研究課題
レドックスバランス異常の捕捉は疾患の予防や早期診断に繋がり、低酸素領域の検出は腫瘍進展を推測可能であることから、その生体イメージング技術の開発は非常に重要かつ急務である。オーバーハウザーMRI(OMRI)装置から得られるレドックス変動や酸素濃度に関する情報とMRI装置から得られる解剖学的情報を空間的に融合することができれば、種々の疾患での病態解析の精度向上や新薬シーズの早期創出が期待される。そこで本研究は、3次元(3D)のOMRI画像とMRI画像を重畳する融合システムを開発し、大腸ガン等の疾患モデルで検証することを目的に、まずソフト開発より着手した。 OMRIを用いた2次元の酸素濃度画像作成の報告例を元に、OS Windows 7搭載パソコンにてVisual Basic言語で2次元の酸素濃度画像作成ソフトを作成した。異なる酸素濃度条件下での酸素濃度感受性ラジカルを含む擬似試料を用いて求めた計算値と実測値の間で非常に良い相関が得られたことから、本OMRIシステムでの酸素濃度計測手法を確立した。次に3DでのMRIとの重畳ソフトを試作し、擬似試料を用いて検証中である。 また、次年度に実施予定である、消化管粘膜炎症モデルでのレドックス変動部位と粘膜損傷部位との空間的融合および腫瘍モデルでの低酸素領域、レドックス変動部位と解剖学的情報との空間的融合に先立ち、正常マウスを用いて酸素濃度画像との融合にも適したスライス面や厚さ、枚数、ボクセルサイズ、撮像シーケンスなど各種撮像条件の予備検討を行った。重畳ソフトの検証が終わり次第、速やかに疾患モデルへの応用が可能となり、炎症や腫瘍の発症・進展過程でのレドックス変動領域を同定する精度が格段に向上し、レドックス関連病態解析や新薬シーズ創出への展開が期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、3次元OMRI/MRI重畳ソフトの開発と疾患モデル動物への応用に大別でき、本年度は重畳ソフト開発の検証まで終える計画であった。現在、3D-OMRI/MRI重畳ソフトを試作し、擬似試料を用いて検証中であるため、完全に計画通りの進捗ではないが、疾患モデルへの応用に先立ち、正常動物での各種撮像条件の予備検討を終えており、総合的には概ね順調に進展していると判断した。
次年度の研究計画は、(1)重畳ソフトの検証、(2)消化管粘膜炎症モデルを用いたレドックス変動部位と解剖学的部位との空間的融合の検証、(3)腫瘍モデルを用いた低酸素領域・レドックス変動部位と解剖学的部位との空間的融合の検証の3項目である。 (1)について、OMRIおよびMRIの空間的感度分布等を精査し、必要に応じてキャリブレーションを行うことで、空間的融合の検証を行う。その後、(2)を実施するにあたり、易還元性ラジカルはレドックス感受性が高い反面、撮像中に消失する可能性があることから、適度なレドックス感受性を有する造影剤を検討する。(3)を実施するにあたり、まず腫瘍領域での低酸素が報告されている移植腫瘍モデルを用いて酸素濃度、レドックスと解剖学的情報の3次元重畳を検討し、続いて大腸ガンモデルでの応用を試みる。
3D重畳ソフトを疾患モデルで検証するための実験動物やモデル作成のための化学物質、造影剤、組織学的病態評価や酸化ストレス評価のための試薬を中心に購入する。旅費として、国内学会にて毎年2回研究成果を発表する計画で、1回あたり75千円×2=150千円、国際学会にて毎年1回研究成果を発表する計画で、1回あたり300千円×1回=300千円を使用する予定である。また、成果をまとめるための印刷費として100千円を使用する予定である。
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Free Radical Biology and Medicine
巻: 51 ページ: 1799-1805
10.1016/j.freeradbiomed.2011.08.010