研究課題/領域番号 |
23790052
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中村 照也 熊本大学, 生命科学研究部, 助教 (40433015)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 薬物結合蛋白質 / 構造活性相関 / X線結晶構造解析 |
研究概要 |
ヒトα1-酸性糖蛋白質 (AGP) は,体内に投与された実に多くの薬物と結合する血清糖蛋白質であり,薬物の体内動態,薬理発現に大きく関与している.よって,AGPの薬物結合の研究は,炎症・疾患時に投与された薬物の体内動態,薬理発現を考える上で重要である.本研究では,AGPの2つのバリアントであるA体およびF1*S体と様々な薬物との複合体構造をX線結晶構造解析により決定し,さらに,薬物結合解析をあわせて行うことで,AGPの薬物結合機構の詳細を理解する.本年度は,A体およびF1*S体の薬物複合体のX線結晶構造解析を行った.A体については,これまでに糖鎖除去型A体の単独の結晶構造,そして3種の三環系薬物および類似骨格薬物 (アミトリプチリン,クロルプロマジン,ジソピラミド) との複合体結晶構造をそれぞれ決定し,それら薬物の結合様式から,薬物の主骨格である芳香環部分の結合部位を明らかにしている (J. Biol. Chem.).本年度は,新たに2種類の三環系薬物との複合体結晶構造を決定し,それらの結合様式を明らかにした.一方の薬物の芳香環部分は,これまでの薬物と同様,既存の結合部位で認識されていたのに対し,他方の薬物の芳香環部分は,この既存の結合部位を含むさらに広範な領域で認識され,A体による芳香環部位の認識に多様性が見られた.これらの結果から,A体は,これまで考えていたよりも広い結合領域で,三環系薬物の芳香環部位を認識することが明らかになった.また,F1*S体については,これまでに決定したF1*S体単独の結晶化条件では,薬物結合部位に沈殿剤が結合することがわかったため,現在,F1*S体-薬物複合体を用いて新たに結晶化条件のスクリーニングを行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は,A体およびF1*S体の薬物複合体のX線結晶構造解析を行うことを研究計画に掲げた.A体については,大量発現・精製により高純度サンプルを得た.そして,結晶化条件の最適化を行うことで2種類の薬物について,複合体結晶構造を決定した.その結果,A体は,これまで考えていたよりも広い結合領域で,三環系薬物の芳香環部位を認識することが明らかになり,A体の薬物結合についての構造学的知見を積み上げることに成功した.F1*S体については,大量発現・精製により得られた高純度サンプルを用いて,現在,薬物複合体の結晶化条件を新たにスクリーニングしているところである.以上より,おおむね順調に研究が進展している.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に続き,A体およびF1*S体の薬物複合体のX線結晶構造解析を行う.A体については,既に報告している3種の薬物に加え,昨年度,新たに2種類の三環系薬物の複合体結晶構造を新たに決定することにより,A体は,これまで考えていたよりも広い結合領域で,その他の三環系薬物の芳香環部位を認識する可能性が示唆された.そこで,本年度はさらに,三環系薬物および異なった骨格の薬物との複合体の構造解析を行い,三環系薬物にとどまらず,A体が持つ薬物結合の構造学的基盤を明らかにする.F1*S体については,引き続き,F1*S体と特異的に結合する薬物との複合体構造解析を行い,それぞれの薬物の結合様式を明らかにする.F1*S体については, F1*S体単独の結晶化条件が,薬物複合体結晶には適応できないことが分かったため,F1*S-薬物複合体としての結晶化スクリーニングを引き続き行い,得られた複合体結晶の構造解析を行う.その際の薬物についても,結合親和性を考慮して複数種選択し,それぞれについてスクリーニングを行う.薬物結合解析については,これまでの構造解析の結果から,A体の薬物結合選択性に関わるアミノ酸残基が明らかになったため,それらの残基をA体とF1*S体間でスイッチさせた変異体をそれぞれ作製し,薬物結合特性の変化を調べる.さらに,ITCを用いた熱力学的パラメータの測定に着手する.これらの実験により,A体とF1*S体とのバリアント間の薬物結合選択性,さらには薬物の結合様式と親和性の相関を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度に引き続き,一般薬品類としては,蛋白質発現・精製の試薬,AGP結合薬物などを購入する.その他に,蛋白質精製カラム,結晶化試薬,結晶化プレートなどを購入する.旅費等については,大型放射光施設SPring-8とPhoton Factoryでの実験,学会参加 (蛋白質科学会など) などに使用することを予定している.
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