ヒトα1-酸性糖蛋白質 (AGP) は,生体反応の急性期に著しい増加がみられる血清蛋白質であり,臨床で用いられている実に多くの薬物と結合する.よって,AGPの薬物結合の研究は,炎症・疾患時に投与された薬物の体内動態,薬理発現を考える上で重要である.本研究では,AGPの2つのバリアントであるA体およびF1*S体と様々な薬物との複合体構造をX線結晶構造解析により決定し,さらに,薬物結合解析をあわせて行うことで,AGPの薬物結合機構の詳細を理解する. 我々はこれまでに,A体について,3種の三環系薬物および類似骨格薬物との複合体結晶構造を報告している (J. Biol. Chem. 2011).A体について,さらに新たに2種類の三環系薬物との複合体結晶構造を決定し,最終的に1.49 angstrom分解能 (Rcryst/Rfree = 0.159/0.199) と1.58 angstrom分解能 (Rcryst/Rfree = 0.166/0.180) でそれぞれ構造の精密化を完了した.これらの立体構造情報をあわせることで,A体およびF1*S体の薬物結合ポケット内の4つのアミノ酸残基の違いが,両バリアントの薬物結合特異性に寄与していることを明らかにした.この4つの残基をA体およびF1*S体間で交換した変異体を調製し (M1:1残基置換~M4:4残基置換),薬物結合性を評価した.その結果,A体M1およびF1*S体M1では,薬物結合にほとんど変化が見られなかったため,1残基のみでは薬物結合特異性に寄与しないことが考えられた.そこで,A体M4およびF1*S体M4を調製したが,CD測定から両変異体とも正しい立体構造をとっていないことが明らかになったため,現在,A体およびF1*S体のM2,M3変異体を用いて薬物結合を評価し,バリアント間の特異性を明らかにしようとしている.
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