研究課題/領域番号 |
23790054
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
近藤 次郎 上智大学, 理工学部, 助教 (10546576)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 薬剤耐性菌 / 抗生物質 / リボソーム / X線結晶解析 / ドラッグデザイン |
研究概要 |
本研究は、緑膿菌感染症などに処方されるアミノグリコシド系抗生物質に対する細菌の薬剤耐性獲得メカニズムを分子レベルで明らかにすることを目的とする。 アミノグリコシドは細菌リボソームの活性部位に存在するRNA分子スイッチに作用することで高い殺菌効果を示す。これに対して細菌は、分子スイッチをわずか1塩基変異させることで薬剤耐性を獲得する。しかしこれは、細菌にとって自身のリボソームの働きを低下させうる危険な行為である。 薬剤耐性菌が持つ変異型分子スイッチには数種類あるが、平成23年度は、そのうちのA1408G変異型スイッチに焦点をあてて研究を進めた。このスイッチを導入したRNAモデル分子を設計し、申請者が開発した核酸分子用スクリーニングキットを用いて結晶化条件を検索した結果、抗生物質を含む条件と含まない条件の両方で良質の単結晶を得ることに成功した。これらの結晶について、高エネルギー加速器研究機構Photon Factoryの放射光を用いて高分解能X線回折データを測定し、分子置換法と多波長異常分散法で結晶構造を決定した。その結果、A1408G変異型スイッチのON/OFF両方の状態の構造を得ることができたので、断熱モーフィング解析によってスイッチの動的構造変化も観察した。 アミノグリコシドは野生型細菌が持つ分子スイッチのA1408と安定な擬塩基対を形成できるが、薬剤耐性菌が持つ変異型分子スイッチのG1408とはこの擬塩基対を形成できないことがわかった。また、変異型分子スイッチは野生型スイッチとまったく同じ動き方をすることもわかった。つまり、薬剤耐性菌は自身のRNA分子スイッチの働きを正常に保ったままアミノグリコシドの作用を免れることを明らかにした。今後はこの構造的知見を利用して、薬剤耐性菌にも効く新規薬剤の設計・開発を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書を提出した段階では、平成23年度に数種類の薬剤耐性型分子スイッチの結晶化を、平成24年度にそれらの構造解析を、平成25年度に新規薬剤の設計・開発を行う予定であった。実際には、平成23年度中にA1408G変異型分子スイッチの結晶化と構造解析に成功し、このスイッチに作用する薬剤の設計を行うところまで研究が進展した。以上の結果はすでに国際学術誌論文(査読つき)1報、国際学会口頭発表1件、国内学会口頭発表1件とポスター発表1件として報告し、化学工業日報でも報道された。 一方、A1408G以外の変異型分子スイッチ(A1408methyl-A、G1491Uなど)についてはいまだに良質な結晶が得られていないため、平成24年度中にこれを完了させ、平成25年度前半には構造解析まで完了させたい。 以上を総合すると、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に構造解析を完了したA1408G変異型分子スイッチについては、この構造と動きを基にして新規薬剤の設計を行う。設計した分子の化学合成と薬剤耐性菌への殺菌効果の評価は、カナダ・モントリオール大学のS. Hanessian教授の研究グループと共同で進める。アミノグリコシド系抗生物質の中で特に殺菌効果が高いシソマイシンを改変して、A1408G変異型分子スイッチをON状態に固定する薬剤を開発する。そして、この薬剤と野生型および耐性型分子スイッチとの複合体の構造を解析し、分子認識機構を詳しく調べる。 また、A1408G以外の変異型分子スイッチ(A1408methyl-A、G1491Uなど)の構造研究にも着手し、薬剤耐性獲得メカニズムの全容解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度にはA1408G変異型分子スイッチの構造解析を完了した。平成24年度はこれ以外の数種類の変異型分子スイッチ(A1408methyl-A、G1491Uなど)の結晶化とX線解析を行うため、研究費は主に化学合成RNAや結晶化用試薬・器具などの消耗品の購入にあてる。また、これまでに得られている研究成果を国際学術誌および国際・国内学会で報告する予定であり、論文投稿と旅費にも使用する。
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