研究課題/領域番号 |
23790056
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
深水 啓朗 日本大学, 薬学部, 講師 (20366628)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | cocrystal / ナノ粒子 / 混合粉砕 / 噴霧乾燥 |
研究概要 |
本研究における薬物のナノcocrystal(共結晶)化は,溶解性や安定性といった原薬物性の改善ならびに薬物吸収性の向上に関する新たな方法の提供を目的としている.今年度は,解熱鎮痛薬として汎用されているアセトアミノフェン(APAP)をモデル薬物とし,cocrystalの形成スクリーニングおよびキャラクタリゼーションについて検討を行った. 先ず,メカノケミカル反応を企図した混合粉砕法により,医薬品添加物として使用実績のあるカルボン酸22種類,ならびにアミノ酸20種類(以後coformerとする)を用いて,APAPとのスクリーニング実験を行った.その結果,カルボン酸類のうちシュウ酸(OXA)とマレイン酸(MLA),アミノ酸類のうちプロリン(PRL)との粉砕混合物(GM)で,粉末X線回折(PXRD)パターンおよび赤外吸収(IR)スペクトルに変化が認められた.APAPとOXAのGMに関しては,既にKarkiらによって報告されているcocrystal(モル比1:1)のPXRDパターンと一致し,混合粉砕法によっても同様のcocrystalが形成されることを確認できたため,本法がスクリーニング条件として妥当であると考えられた.また,溶媒蒸発法による複数種の有機溶媒を用いた検討,引き続いて反応結晶化法による調製法についても試行し,示差走査熱量測定の結果も加えて総合的に評価した結果,新規な2種類を含む3種類の結晶性複合体を得ることに成功した. APAPは長年にわたり,世界中において乳幼児から高齢者まで広範に用いられている薬の1つであるが,これまで複合体が実用化された例は報告されていない.したがって,新規な複合体が見出されたことは,その物性に新たな一面をもたらす可能性が期待できるという点で,非常に意義深いと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画目標として掲げた「Cocrystalの形成スクリーニング」を完了し,新たな複合体を2種類見出せたこと,ならびに「Cocrystalの基礎物性及び製剤学的特性の評価」に関しても実施できたことから,計画通りに進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた結果を基にして,新規に見出されたcocrystalの粒子サイズをナノレベルで制御できるか検討する.その際,調製法としては混合粉砕法あるいは噴霧乾燥法を用い,名古屋市立大学大学院・薬学研究科(尾関哲也教授)との連携も視野に入れる.具体的には,ナノcocrystalの調製及びその保護に適したポリマーや調製条件について検討する.(1)Cocrystalのナノ粒子化:既に薬物・界面活性剤との組み合わせで薬物ナノ粒子の形成が達成されているアクリル系ポリマー,一般に粉体の流動性に優れる多糖及びその誘導体を主成分とするセルロース系ポリマーを用いて,cocrystalの調製及び物性に及ぼす影響を検討する.Cocrystalのナノ粒子化が達成された場合は,その安定性に適したポリマー数種類について,調製温度・時間,成分の組成比等の諸条件について最適化検討を行う.(2)実生産を見越した基礎検討:製造時のスケールアップあるいは保存中の安定性に関する知見を得るために,様々な基礎物性について収集を行う.具体的な測定項目としては,溶解度相図の作成による溶解挙動の把握,各種保存条件における安定性試験,単結晶X線構造解析による結晶構造の解明,水系溶媒での溶解速度ならびに分散安定性等が挙げられる.従来のAPAP単独と比較して優れた物性が認められた場合は,膜透過性ならびに生体吸収性についての評価も考慮する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は薬学6年制の完成年度であり,6年次における卒業研究,ならびに研究室における5年次生との協力や引き継ぎが初めて行われた.それ以前に立てた実験計画と実際のマンパワーに若干の差が認められた.さらには震災および付随した節電等の影響により研究の始動が遅れたことにより,当初の計画に対して10%弱の繰越額(123,897円)が生じた.しかしながら,現在ようやく年間スケジュールの見通しが立ったこと,6年次生8名および5年次生6名が当該テーマに関して研究を開始していることから,次年度は計画通りの進捗が期待できる. 平成24年度は,主に新規cocrystalの基礎的な物性検討,ならびに調製(製造)条件の最適化を行うために,物品費として750,000円程度を予定している.また,今年度に得られた成果を広く公表するために,学会に参加する旅費として300,000円,英文校正を行う人件費・謝金として50,000円,その他の予備費として20,000円程度を予定している.
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