研究課題
初年度は、本研究の目的の1つであるセンサリーロドプシンII(HsSRII)におけるM様中間体の物理化学的性質を明らかにするための1つの方法として、水溶性試薬であるヒドロキシルアミン(HA)を用いたブリーチ実験を行った。その結果、M様中間体時において、タンパク質内部(特にレチナールシッフ塩基近傍)での親水性が増大するということが明らかとなった。また、M様中間体形成に伴って起こるタンパク質内部の親水性の増大により、タンパク質の一部が失活することも明らかとなった。以前から、HsSRIIは様々な条件下で不安定なタンパク質であるとされてきたが、その要因の1つとして、M様中間体時における親水性の増大(水の流入)が挙げられることを明らかにすることができた。この発見は、HsSRIIに限らず、今後様々なレチナールタンパク質を実験において安定に扱う上で役立つものと考えられる。また、M様中間体と同時に光励起により形成されるM中間体もまたHAによってブリーチされたことから、両中間体時における構造変化はよく類似している可能性が示唆された。M中間体がHsSRIIの光情報伝達に重要な中間体の1つであるという報告から考えて、M様中間体もまたHsSRIIのシグナリングステイトになり得るかもしれない。この可能性については、次年度以降に検討していきたいと考えている。 また本研究テーマとは逸れるが、HsSRIIのレチナール近傍にあるアミノ酸残基の役割について調べるため、低温スペクトル測定およびFTIR実験を共同研究として実施した。その結果、HsSRIIにおいてSer201残基が光化学サイクル中における反応経路の制御に関わっていることを明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
HsSRIIにおけるM様中間体の物理化学的性質を明らかにするという点に関しては、光励起状態時(M様中間体生成時)におけるレチナールシッフ塩基近傍での変化についての情報を得ることができ、ある程度の成果を達成することができた。一方、この中間体が生成される際の反応スキームやプロトン移動機構については今後調べるべき課題として残された。
M様中間体がシグナリングに関係する中間体であるかどうかを調べるため、実際の生菌における走光性測定が可能な高度好塩菌への遺伝子の乗せかえと顕微鏡による走光性の測定・解析を行う。また、HsSRIIにおけるM様中間体が構造情報をどのように共役タンパク質であるトランスデューサー(HsHtrII)へと伝えるのかを調べるために、HsHtrIIのタンパク質大量発現系の構築を目指す。
研究費の主な使用用途は、大腸菌および好塩菌におけるタンパク質発現プラスミド構築に必要なプライマー、酵素などの購入、および膜タンパク質の可溶化に必要な界面活性剤の購入などである。また、異なる励起光での実験を行いたいため、種々の光学フィルターの購入にも使用したい。
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