フラーレン C60 は炭素原子が球状のネットワーク構造をしている直径約 1.0 nm の分子である。C60 は既存の光増感剤と比較して非常に高い量子収率や長波長の吸収スペクトルを持つことから、一重項酸素、スーパーオキシドアニオンラジカルなどの活性酸素種(RO S)を効率よく生成する光増感物質として注目を集めている。本研究では新規 C60 医薬の開発を企図し、可溶化剤として医薬品での使用実績があり、親水性で生体適合性に優れる 2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CyD)を用いて C60 をナノ粒子化し、その複合体構造を解明するとともに、物理化学的特性や生物活性を明らかにした。溶液・固体 NMR などの各種スペクトル測定および粒度分布、ζ-電位、TEM などのコロイド粒子に関する表面分析の結果より、 HP-β-CyD は C60 ナノ粒子表面で相互作用(吸着)し、C60 ナノ粒子表面を広く覆い、安定な親水性の層を形成しているものと推察された。また、ESR測定の結果より、C60/HP-β-CyD ナノ粒子は可視光照射下においてスーパーオキシドアニオンラジカルや一重項酸素などの活性酸素種を効果的に生成した。さらに、C60/HP-β-CyD ナノ粒子は、可視光照射条件下でのみ細胞障害活性を示したことから安全性の高いナノ粒子であることが示唆された。このC60ナノ粒子は担がんマウスに対しても優れた抗腫瘍効果を示し、副作用も確認されなかった。本研究は優れた光増感作用を有し、ナノマテリアルとして注目されているC60 を生体適合性に優れる HP-β-CyD を用いてナノ粒子化し、その汎用性を高めるものであり、本研究で調製した C60/HP-β-CyD ナノ粒子は次世代型の光増感剤、DDS 用素材として有力な候補物質になるものと考えられる。
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