研究課題/領域番号 |
23790068
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
米田 宏 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (60431318)
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キーワード | スプライソソーム / snRNP |
研究概要 |
本研究の目的はスプライソソーム異常が原因の優性遺伝型網膜色素変性症(AdRP)の発症機序を理解し、治療の手がかりとなる分子を同定することである。我々はスプライソソーム形成過程の中間複合体であるsnRNPの簡便な検出法を開発しており、これを応用して網膜色素変性症発症を引き起こす変異型スプライソソーム因子のsnRNPへの影響を検出することで発症機構を解析する戦略をとっている。snRNPはU1、U2、U4、U5、U6 snRNP の5 種類あり、それぞれ特異的な核内低分子 RNA (snRNA) を骨格に、そこに特異的に結合するタンパク質群から構成される。昨年度までに細胞内U5 snRNP量の変動を検出できるsplit luciferaseを用いたレポーターを構築しており、これを利用して約20種類の既知の阻害剤のU5 snRNPへの影響を検討した結果、MG132がU5 snRNP量の減少を引き起こすことを見出している。この結果から我々のレポーターの有用性が示されたため、本年度はさらにこのレポーターをもとにして、全自動ロボットによるスクリーニング系を立ち上げ、東大創薬オープンイノベーションセンターの化合物ライブラリからU5 snRNP量を変動させる化合物のスクリーニングを行った。また、U5 snRNP以外の他のsnRNPについても同じ原理に基づいたレポーターを構築し、U4/U6 snRNP、U4/U6.U5 tri-snRNPについてもU5同様に検出することが可能となった。スクリーニングと並行して、これらを用いて変異型スプライシング因子の強制発現がsnRNPへ及ぼす影響を検討したが、現在までに顕著なsnRNP量への影響は観察されていない。これらの因子のノックダウンによる発現量減少はsnRNP量に対して予想通りの効果を示すため、現在変異型の影響を検出できる系の確立に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では本年度は主に「U5 snRNP の変化を誘導するシグナル経路の同定」と「RP 変異体とストレス経路がスプライソソームサイクルに及ぼす相乗効果の解析」を目的としていたが、U5 snRNPの変化を誘導する薬剤としてMG132が得られたものの、他のプロテアソーム阻害剤を用いた結果から、MG132の作用はプロテアソームとの関連性が低いことが予想され、MG132処理からU5 snRNP変動に至る経路の特定は予想より困難と考えられた。そこで新たなアプローチとして、より多くの化合物からU5 snRNP量を変動させる化合物を探索することを計画した。そのため、これまで手動で行っていたアッセイをロボットを用いて全自動化し、多検体を処理できるスクリーニング系を構築した。このスクリーニング系に東大創薬オープンイノベーションセンターから提供された化合物約1万種を適用し、陽性化合物候補を得た。現在これらの化合物の作用の詳細を解析中であり、これらがU5 snRNP量を変動させる作用機序を解明することで、当初の目的に迫れると考えている。また、U5 snRNP以外のsnRNPについてもレポーターを構築することができたため、これらレポーターと疾患原因変異型のスプライシング因子を一過的に共発現させることにより、変異型タンパク質がsnRNPに与える影響も検討した。しかしこの系では変異型タンパク質の効果を検出できる結果は得られておらず、今後は一過性でなく、より安定した発現系を構築して実験を行うことで、変異型がsnRNP量に及ぼす影響を検出可能になると期待している。これら上記の結果から本研究の達成度を評価すると、研究の道筋は計画通りではないが、その都度方向性を修正しつつも一定の成果を挙げており、概ね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の概要や達成度の項でも述べたとおり、申請者が開発したスクリーニング系により、現在複数のsnRNP量を変動させる化合物候補を得ている。今後はこの化合物群の作用を詳細に解析し、擬陽性の排除や、作用機序の分類を進めていき、snRNP量の調節に関わる経路、因子の同定につなげていく予定である。さらに、snRNP量の変動を引き起こす化合物の処理が細胞にどのような影響を及ぼすかを内在性の遺伝子群の発現変動を観察することも化合物の効果を考える上で重要な情報となる。このためには化合物処理後の細胞からmRNAを回収し、次世代シーケンサーを利用したトランスクリプトーム解析が最適である。これにより、単純な遺伝子発現の変動だけでなく、スプライシングアイソフォームの比率の変化や新規のスプライシング部位の利用など、トランスクリプトームの質的変化も解析できると考えている。これにより、snRNPの変動が有する生理的意義をスプライソソームへの作用というメカニズム面と遺伝子発現の変化という現象面での検討両方が可能になり、スプライシング因子の異常によるsnRNP量の変動が網膜色素変性症を引き起こす機序の一端を解明できると考えている。また、変異型の因子群の効果を簡便に検出する実験系がまだ構築できていないので、現段階での結果をもとに実験系を目的に合致するように改善していく。そのような変異型因子の効果を評価する実験系が構築できれば、最終的には、変異型スプライシング因子に化合物処理を組み合わせることで、変異型発現によるトランスクリプトームが正常型と同様のパターンに回復することを確認できる実験系につながると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は化合物探索により得られたsnRNP量を変動させる化合物がレポーターだけでなく、実際に細胞のトランスクリプトームにどのような影響を与えるかを網羅的に解析することを予定している。残額は主にその解析に使用する。タイミング良く、申請者の所属機関には次世代シーケンサーが次年度に導入される予定であり、外部へ受託解析を依頼するよりも安価に行えるため、残額でもそのような解析が可能になると考えている。また変異型スプライシング因子の効果を検出できる実験系の開発はこれまでに構築したレポーターの発現条件を改善していくことを最初の検討とするため、経費として大きなものは予定していない。
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