研究課題/領域番号 |
23790070
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
多留 偉功 北海道大学, 創成研究機構, 特任助教 (30533731)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | シナプス形成 |
研究概要 |
レシナプス構造は神経細胞の伝達物質放出を担う分子装置である。これまで研究代表者らは、線虫C.elegansのプレシナプス形成における制御分子SYD-1とSYD-2の重要性と多量体形成を介した活性化機構を明らかにしてきた。本研究課題においては、SYD-1・SYD-2がプレシナプス機能分子群の集積と組織化にはたす作用機序を、関連する分子群の実体を同定し解明すること目指している。代表者らは、まず大規模スクリーニングによってsyd-1の抑制変異体を同定し解析を進めた。本抑制変異は、syd-1機能欠損変異体が呈するHSN神経細胞におけるプレシナプス形成不全とそれに伴う産卵行動異常の表現型を抑制する。CB-SNPマッピング法と三点交雑マッピング法を用いて、変異遺伝子座を5番染色体の右腕の一部に絞り込み、さらに次世代シーケンス法を用いた遺伝子配列解析によって、細胞間接着ドメインを有する膜タンパク質をコードする遺伝子上に変異を同定した。今後、SYD-1・SYD-2との相互作用の解析によってプレシナプス形成の分子機構に新たな概念を提唱することが期待される。また順遺伝学的なスクリーニングを補足する目的で、神経細胞選択的なRNAi遺伝子抑制による逆遺伝学的スクリーニングを開始した。線虫全遺伝子の8割強を網羅するRNAiライブラリーを用いて、生存・生殖に必須の遺伝子群、および情報伝達系に関与するドメイン構造を持つ遺伝子群から順に、解析を進めている。さらにsyd-1・syd-2機能欠損変異体と類似した産卵行動の異常やGABA作動性運動神経細胞の異常を示す二つの変異体を同定し、原因変異部位をそれぞれ3番染色体の中央部およびX染色体の右腕末端部にマッピングし、遺伝子シーケンスによる最終的な変異の同定を進めている。神経発生、シナプス形成における新たな分子経路の解明の糸口となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は、プレシナプス形成に必須のアクティブゾーン分子SYD-1とSYD-2が、多様なプレシナプス機能分子群の集積と組織化を誘導する分子機構を明らかにすることである。研究計画においては、1)SYD分子群の下流標的因子の同定と機能解析、2)神経細胞内輸送の調節機能の関与、の二つのアプローチを計画していた。1)に関しては、新規抑制変異体の原因遺伝子の同定に既に成功し、他の複数の修飾変異体の解析も進行している。また、さらに補完的な解析として網羅的RNAi法による探索を進めており、総じて順調な進捗をみせている。2)に関しては、神経細胞内輸送に対する表現型を直接かつ安定的に評価するという点で、現在手法の改良を要している。既に解析を要する変異系統の作製は終了しており、観察技術の調整によって仮説検証の完了が可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目的であるプレシナプス機能分子群の集積と組織化の分子機構の解明に向けて、現在まで、大規模スクリーニングによる関連分子の同定を基にした探索発見型のアプローチを軸に計画を進めてきたが、関連遺伝子の同定は順調に進展しており、今後は特に新規に見出された遺伝子の機能とシナプス形成における分子機構の解明を遺伝学的手法と細胞生物学的手法を用いて早急に進めることが重要である。並行して進めている神経細胞内輸送の調節機能の関与に関する仮説検証型のアプローチに関しては、米国や台湾のグループとの競合も大きくなりつつあり、貢献度の高い研究成果を得るためには、観察技術の調整ののちに特にSYD-2機能亢進変異やDLK経路の関与などの独自性の高い切り口に注力して、展開していく必要がある。シナプス形成に関して予期せぬ新規概念を見出す可能性という点で、スクリーニングに基づく分子機構の解析には大きな強みがある。したがって今後の推進方策としては、新規に見出した関連遺伝子群の解析に特に重点をおいて進めることが、本課題から最大の貢献をなし得る方策であると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度の研究費使用において、消耗品類購入・研究補助員雇用などの予定変更、実施した受託解析の納品が次年度となる、などの複合的要因によって、次年度使用額が生じた。次年度の研究費使用に関しては、予定していた試薬・消耗品類、補助員雇用に加え、特に新たに必要が生じた次世代シーケンス解析およびプロテオーム解析について、それぞれ受託解析を利用することによって研究の迅速な進捗を図る計画である。また観察に必須の装置である蛍光顕微鏡について、老朽化によって不具合の頻度が顕著に増えていることから、状況に応じて大規模な交換等を実施する。
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