研究課題/領域番号 |
23790072
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
塩田 倫史 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00374950)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | D2 受容体 / 状突起突起伸長 / ドパミン神経 / 黒質緻密部 |
研究概要 |
統合失調症や注意欠陥多動性障害などの重篤な精神疾患の発症や、情動や認知機能などの精神活動にはドパミン神経系が深く関与している。 D2 受容体と統合失調症との関連はほとんどの抗精神病薬が D2 受容体遮断作用を有すること、線条体での D2 受容体遮断作用が統合失調症の陽性症状改善効果と相関することからも明らかである。 D2 受容体作用薬を用いた画像診断によると、統合失調症患者では D2 受容体結合能が帯状回皮質で低下している。さらに、遺伝子解析から、 D2 受容体に統合失調症患者に共通する遺伝子多型が見出されている。さらに、ヒト死後脳の線条体と前頭前野領域において D2 受容体のイントロン 6 における一塩基多型が報告されている。しかし、 D2 受容体のどのシグナル伝達系の異常が統合失調症等の精神疾患を引き起こすのか未だ明らかにされていない。当研究室では、 D2S 受容体が細胞膜表面にのみ局在するのに対し、 D2L 受容体は細胞膜表面に加えて、ゴルジ体を含めた細胞内小器官にも存在することを明らかとした。さらに、 D2L 受容体細胞内第 3 ループの 29 アミノ酸残基に特異的に結合するタンパク質であり、細胞内小器官に局在する脂肪酸結合タンパク質3 が D2L 受容体の機能を制御することを明らかにした。予備実験では、D2L 受容体発現細胞は D2S 受容体発現細胞よりも神経細胞の突起伸展が促進されること見出している。また、D2 受容体作用薬での Gi からチロシンキナーゼ系を介する ERK の活性化において、D2S 受容体発現細胞は ERK 活性が一過性に上昇したが、D2L 受容体発現細胞は持続的な活性化が見られた。これらの結果は、D2L 受容体にはこれまでの報告とは異なる細胞内小器官における新しいシグナル伝達機構が存在し、神経細胞の樹状突起突起伸長を制御することを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
D2 受容体作動薬 quinpirole 及びドパミン刺激による細胞内における局在特異的なカルシウム動体を検討するため、小器官特異的カルシウム指示蛍光タンパク質発現ベクターを用いた。 D2L 受容体及び D2S 受容体安定発現 Neuro2A 細胞株に Lipofectamin を用いてこれらのベクターをトランスフェクションし、カルシウムイメージングを行った。D2L 受容体安定発現 Neuro2A 細胞におけるquinpirole刺激による核内カルシウム濃度を測定したところ、細胞核内でのカルシウム濃度の上昇が観察された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的を達成するため、以下の 2 点に関して検討する。1)D2L 受容体安定発現細胞における細胞内小器官の Gi タンパク質活性化マシナリーの同定 2)マウス中脳切片培養細胞と in vivo マウス黒質緻密部における D2L 受容体過剰発現による BDNF 遺伝子発現とドパミン神経細胞の樹状突起・スパインの定量的解析ドパミン D2 受容体の新しい細胞内シグナルを見出すことは、統合失調症をはじめとした精神疾患の原因解明と新たな治療薬の開発に貢献できることが期待できる。一方、これまでの研究においてドパミン D2 作動薬は線条体のドパミン D2 受容体を刺激し、錐体外路障害を軽減する作用に加えて、黒質のドパミン D2 自己受容体の刺激が黒質ドパミン神経細胞死を抑制することから、ドパミン D2 自己受容体を介したパーキンソン病等のドパミン神経変性疾患の根本治療の可能性が注目を集めている。しかしながら、ドパミン D2 作動薬によるドパミン神経保護作用メカニズムは未だ解明されておらず、その細胞内標的因子も明らかとされていない。黒質ドパミン神経細胞の突起伸長を促進するD2L 受容体が、ドパミン神経系が関与する精神疾患、神経変性疾患の新たなターゲットとなるものと期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)D2L 受容体安定発現細胞における細胞内小器官の Gi タンパク質活性化マシナリーの同定ショ糖密度勾配法を用いて細胞内小器官 D2L 受容体活性化機構に関与するタンパク質を同定する。細胞質可溶性蛋白質、細胞膜、脂質ラフト、シナプス小胞、ミトコンドリアや小胞体、ゴルジ体等の細胞内小器官をフラクション分画後に Giタンパク質の発現をWestern blot 法を用いて検討する。同じ分画を用いて、ERK の活性化に必要とされているチロシンキナーゼ受容体と可溶性チロシンキナーゼの発現も併せて検討する。D2S 受容体安定発現細胞と比較検討することによって D2L 受容体特異的活性化機構が明らかとなる。2)マウス中脳切片培養細胞における D2 受容体作動薬刺激によるカルシウム依存性 BDNF 遺伝子発現の定量的解析生後 1 日齢の C57BL 系マウス新生仔より脳を摘出し、マウス中脳切片培養細胞を培養する。14 日間培養した後 quinpirole で刺激し、 BDNF mRNA の発現上昇をiQ SYBR Green Supermixリアルタイム PCR systemを用いて検討する。さらに、Western blot 解析によりタンパク質発現上昇を検討する。また、D2LR-YFP, D2SR-YFP をアデノ随伴ウイルスベクターを用いて培養切片に発現させ、quinpirole 及びドパミン刺激による BDNF の発現に対する影響を評価する。 D2 受容体阻害薬である haloperidol や sulpilide 処置で BDNF の発現が阻害されるか検討する。
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